ー今回は、周りから変人扱いされている正岡正宗を演じられましたね。劇中では、アロハシャツなどの派手な衣装が印象的です。この役をどのように作り上げたのでしょうか?
菅田:衣装に関しては、「亡くなったバイク乗りのじい様の着ていた服を着る」という映画の設定だったので、レザージャケットやパンツを着用していました。他にもスーツのパンツだけ履いていたり、楽ちんだからと雪駄を履いていたりと。個人的には大好きなファッションですね。
ー役のビジュアルに関して、菅田さんの意見も入っているんですか?
菅田:そうですね。現場に行くと、アロハシャツが何枚か用意してあって、監督と相談しつつ、「今日はこういう気分なので、このアロハでいきましょうか」っていうぐらいです。あとは、最初は髪を下ろしていたんですが、表情がわからなくちゃダメだと思って、髪をアップにしました。顔をちゃんとさらけ出した方がこの役として美しいと思ったんです。
ー映画の感想を教えてください。
菅田:先に伝えておくと、僕はこの映画を100%理解しているとは言い切れません。でも、それこそがこの映画のよさだと思っていて。なぜかはわからないけど、こうなっているというその瞬間がしっかりと切り取られていることが大事なんです。
ーなるほど。正宗というキャラクターはどうですか?
菅田:結局はね、自分との闘いなんです。つまり、正宗はいろいろなものにカメラを向けますが、映画を一度も完成させたことがないんです。そこで、(森川葵さんが演じるヒロインの)知世子に出会い、いい被写体に出会って、今までと違うものが撮影できて、いい経験ができた。でも、そこからどうするかは、自分との闘いになるんです。
ー菅田さんご自身の高校時代は、どのようなものだったんでしょうか? 正宗たちのように、何かに反抗していたとか?
菅田:正宗たちとは違って、イエスマンでした。周りを見て、バランスを取っていました。今だったら、そんなのつまんないなと思いますけど、そういう自分を経て、今の自分があるということも認めてます。自分の高校時代、できることなら中学時代にこういう映画に出会っていたら、当時のいろいろな気持ちを行動に移していたんじゃないかな。
ーちょっと意外な気もします…
菅田:ちょっと話そうか迷っている話があるんですが、聞きたいですか?
ーぜひ聞かせてください!
菅田:この仕事を始める前なんですが、高校時代に昼休みで寝ていたとき、「カシャッ」っていうカメラの音で起きたら、廊下に先生や他のクラスの生徒たちがずらーっと並んでたんです。
ー注目されてたってことですね。
菅田:今振り返ってみれば、気さくに接すればよかったなあと思うんですが、当時はその状況がすごく怖くて。それ以後、他の子とやっていることは同じなのに、周りから注目されてしまうというおかしなことになってました。例えば、体育の授業で走っているだけで、キャーと騒がれたりとか。
ー普通なら、騒がれて調子に乗ったり、勘違いしそうですけどね。
菅田:嫌でしたね。そういう声には、単純に「ありがとう」って言っておけばよかったのにと思いますけど。当時は、女の子や自分自身を意識するというよりも部活一筋の生活でしたから。
ーなんとなくわかります。若い時は、変にストイックだったりしますから。
菅田:そんな感じです。本当に部活に打ち込んでましたから。
ーそんな周りとのコミュニケーションに違和感を持っていた菅田さんですが、今では、どうですか?例えば、今回の映画では、ヒロインの森川葵さんとのツーショットが数多く出てきました。
菅田:ドラえもんとのび太の関係とでも言いましょうか…なんでも願いは叶えてあげようと思ったんです。森川さんが甘いものが欲しいとなれば、コンビニに行って色々と買い揃えてきたり。
ーでも、かつてのイエスマンとは違うわけですよね?
菅田:これは、正宗と知世子という関係になるためには絶対に必要なやり方だったと思ってます。正宗の人となりとしては、過剰な優しさだったのかもしれませんけど。森川さんには、なついて欲しかったというか、時間を共有する関係でいたかったんです。そうすれば、付かず離れず、同じ匂いのする二人になるのではないかと考えたわけです。
ーイエスマンとしてバランスを見てではなく、自分で考えて選んだ結果そうなったんですね。ご自身で印象に残っているシーンはありますか?
菅田:最後の方に出てくる、正宗が自分の足を撮影するシーンです。素直になって、それまでのようにふわふわしていた正宗から地に足の着いた自分になったからなのか、ただ無意識でやったのか、今ではわからないけど。
ープライベートにもそのときの役の影響は出ますか?
菅田:自分ではあまり自覚がないけど、親に会うと「キツい顔をしてるから、悪い役やろ?」と言われたり。親だからわかることなのかもしれないですけど。
ーでは、プライベートで息抜きにしていることはありますか?
菅田:漫画、お笑い、古着が自分の大好きな三本柱です。
ーどんなファッションでしょう?
菅田:最近はファッション離れしてしまっているんですが、例えば、正宗のようにアロハと雪駄、これが僕の一番好きな格好です。値段やブランドを気にせずに、自分がいいと思うものをポンポン放りこんでいく感じです。それぐらいラフな方が、自分が生きるにはちょうどいい気持ち良さなんですよ。「怠惰」が着こなしのテーマですね。(笑)
ー職業上、映画はよくご覧になりますか?
菅田:観てはいますが、数は多くはないかも。徐々に増えていますが、映画は出会いだと考えていて、片っ端から観るということはやらないです。
ー最近観た中でオススメの映画はありますか?
菅田:今年の春に観た映画なんですが、単純に笑うのが好きという点から、『劇場版 テレクラキャノンボール2013』です。ドキュメンタリーなんですが、あんなことやられたら、俳優は勝てないですよ。劇場が一体になって笑って、最後にホロリときて。万人にオススメはできませんが、男だったらぜひ観てほしいですね。
ーまだ21歳とお若いですが、これからどんな役をやって行きたいですか?
菅田:気持ちとしては、全作品の全ての役をやりたいぐらいなんです。もちろん、そんなことは現実には無理ですが。役者は、いい作品を作るためにどうするかという仕事であると同時に、いかにパイオニアになるかという勝負でもあると思うんです。自分らしさ、唯一無二としての在り方をどうしたら出せるのかっていうことですね。
ーそうですね。どうしたらうまく出せるのかってことですよね。
菅田:今はいろいろな監督さんと出会い、いろいろな俳優さんと共演して、いろいろな服を着て、こうやっていろいろなところで話をしたり…。今はとにかく“数”です。あらゆることを経験して、結果的に自然とこうなりましたっていう形が理想です。
ーとても冷静にご自身のキャリアを客観視されて、色々な作品に出られているんですね。
菅田:全部やりたいです!っていう気持ちを変換したらこうなりました。(笑)
ー最後に月並みな質問ですが、どんな人に『チョコリエッタ』を見てほしいですか?
菅田:もちろん多くの人に観てもらいたいですが、強いていうなら、若い人や同業者の俳優でしょうか。何かを抱えている若い人には強く刺さる気がします。こんな気持ちは初めてですが、他の俳優が演じる正宗も観てみたいですね。『チョコリエッタ』はこの形しかないと思いますが、正宗の形は演じる人の数だけ存在すると思うんです。他の人の正宗を観て、うわーって悔しがりたいです。
一つ一つの質問に関して、よどみなくしっかりと答えるその姿は、21歳とは思えないほど。本人は冗談混じりに否定していましたが、冷静な目と圧倒的な情熱で自分のキャリアをしっかりと俯瞰しているのでしょう。2013年の「アカデミー新人賞受賞」という華々しい結果にも、自分を見失わずに、役者という仕事に真摯に取り組む。そんな菅田将暉が今作で体現する「正宗」という等身大のキャラクターをぜひ楽しんでみて下さい。何かを抱えて鬱屈している人、壁にぶち当たっている人を後押ししてくれるかもしれません。
・コート¥6,500、つけ襟¥10,000/共にヴィンテージ(オトエ TEL:03-3405-0355)
・シャツ¥42,000/ヨウジヤマモト(ヨウジヤマモト プレスルームTEL:03-5463-1500)
・パンツ¥26,000/バナル シック ビザール(アッド トウキョウTEL:03-3405-5090)
※価格はすべて税抜き。