第四十四回深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ
マニアの世界は深遠である。
先日、ジャンプスターター用のバッテリーを購入しようとネットを検索していた。ジャンプスタートっていうのはバッテリーが弱まったり上がったりしたときに、外部のバッテリーを繋いでエンジンをかけること。バッテリーが上がったクルマに別のクルマからブースターケーブルを引いてエンジンをかける姿を見たことがある人も多いだろう。あれです。それをクルマ同士でなく、持ち運べる重さのバッテリーでやろうとしているのだ。
冬場は特にバッテリーの消耗が激しい。
自分は特にオンボログルマに乗っているので、二週間も放置したら危険信号。出張や忙しい日が続くとセルモーターが回らないなんてことが過去に何度もある。
交差点の真ん中でエンストし、再始動しようとしたらセルが回らないなんて経験は、そう誰にでもあるわけではない。とくに最近の自動車では。しかし、ぼくは年に数度はこういう経験をしているのだ。
いまではクラクションを鳴らされても動じず、涼しい顔でクルマを路肩までひとりで押して路肩に寄せることができる。
都会の人は意外と親切で、通りがかりの人が助けてくれることも多い。世界に誇れる都市だよ、東京。
まあそんなわけでバッテリーを物色していた。JAFのロードサービスの人が持ってくる大型の方が安心感はあるが、さすがにあそこまで大きいと取り回しに困る。というかクルマに積むのが大変だ。
コンパクトタイプのものは各社から出ているのだが、聞いたこともない名前のメーカーも少なくない。こういう信頼性がモノをいう製品は、日本のメジャーブランドが安心だ。
そこでたまたま見つけたのが今回紹介するバッテリーである。
なんとオーディオ製品に向けて開発されたものだ。
本来、キャンプや非常時などで使うモバイルバッテリーとして開発されてきたこれまでのポータブル蓄電機に、ある一定数のオーディオマニア需要があるということで、それならそれに向けてさらにリファインしたモデルをリリースしようということで開発されたもの。
あまり詳しくはないのだが、ぼくらが普段使っている壁についているコンセントからくる電流をオーディオ機器につなぐとどうしてもノイズが入るらしい。それは電柱からの距離やその分岐によって他の家庭の家電製品から出てるノイズも関係するという。なにがなんだか。
マニアのなかにはそれがイヤで、自分で自分用に電柱を立てる人もいるそうだ。マイ電柱。どこに頼めば立てられるんだろう。
しかしこの電気を蓄電機に集め、その電源で音楽を聴くとノイズのない純粋な音で音楽を楽しめるらしい。まるで電流の浄水器みたいではないか。
スピーカーのコードに命をかけているとか、スピーカーの台がどうとか、家具の素材や配置がどうとか、オーディオの世界は深すぎるというか危険である。
何百万という機器を買い求め、何十万円もするスピーカーコードを引き、防振構造の壁材で補強しデッドニングし、中にはそれように家を建てるなどもしたのに、最後は人体や衣服が音を吸収するため残響が短くなるからと人がいない方がいい音が出るとリスニングルームの外に出て音を鳴らす、という笑っていいのかどうなのかという話を聞いたことがあるくらい、深い。
この蓄電機でいったいどれくらいサウンドが変わるのだろうか。
PROFILE
After working as a freelance editor for Magazine House and Popeye, he managed stylists and started his own editing/production company, which was renamed Rhino Inc. in 2006.
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