それぞれの出身が違っていたら、今のスタイルにはなっていない。
KANDYTOWNは世田谷区喜多見で結成されたクルーとして知られていますけど。今日の取材場所も世田谷=二子玉川です。このエリアは所縁があるんですか?
KIKUMARU 二子玉川はわりと馴染みがあるんです。『ROUTE』ってセレクトショップでイベントやったこともあるし。俺は駒沢に住んでいるんですけど、喜多見にいくときの通り道だったりするので。
Minnesotah 俺も地元がすごい近くて、ここからチャリで15分ぐらい。小さい頃からよく来てましたね。
KIKUMARU 二子玉と喜多見は結構違うよね。喜多見はやっぱりちょっと街から遠い。そういう距離感があるからこそ、俺らには街の姿が違って見えてるんじゃないかなって。作品でも地元の感覚は大事にはしていますね。ルーツは外せない部分だし、どうしても勝手に出ちゃう。
KANDYTOWNの音源もそうですが、今回の新譜からもそういった地元からの影響というようなものはすごく感じました。その街の空気感がそのままパッケージされていますよね。
Minnesotah 住んでいる場所によって聴く音楽が変わってくるっていうのはあると思いますね。もし俺が沖縄に住んでいたら、絶対にチルな曲を流したくなるだろうし。直接影響してるのかって聞かれると正直わかんないですけど。郊外で育ったからこそ、今の感じなのかも。
MASATO 東京で生まれ育ったっていう、ある意味でのプライドみたいなものはあって。この場所なりの音楽の聴き方というか、俺らがやっていることが一番イケているんだっていう見せ方を個人的には意識してますね。いろんな意味がありますけど、広義の意味での「シティポップ」というのを体現して、ヒップホップに落とし込むのがカッコいいんじゃないかなって。
KIKUMARU 古いものと新しいものを混ぜ合わせる折衷的な音楽ていうのはあるかもしれないです。今じゃ、あまりない比喩表現や日本語の使い方をあえて取り入れたりしてるし。何回か聴いてやっとわかるみたいな深みのある部分とストレートに入ってくる今っぽいフックのある部分を融合させてできてるのが、俺らのスタイルなんじゃないかなって。
Minnesotah それぞれの出身が違っていたら、絶対に今のスタイルにはなってないよね。
KIKUMARU そうだね。身近にいて同じ音楽を共有していたからこそ、まとまってるんだと思う。例えば二人が出したミックスCDを聴いて、そこに気になるトラックが入っていたらそれを聴き込んだりする。逆にいいレコードを見つけたら、これ流してみてよって二人に提案したり。
MASATO ラッパーが見つけてくる音源って刺激的だよね。自分たちじゃ考えもつかない変な角度から持ってきたりするし。
KIKUMARU 単純にカッコいいものの基準をみんなが共有してるよね。「これ、いいね!」ってなることはあっても「これ、ダサい」ってなることはあんまりない。そのグルーヴを共有してるからライバル感もないんだよね。
出番が15分なのに、8時間ぐらいリハしていた頃もあった。
昔のことも伺っていきます。KANDYTOWN以前、そもそもお互いのことを知るきっかけっていうのはなんだったんですか?
Minnesotah 知り合うきっかけになったのは、なんかのMCバトルにKIKUが出てて。それを観たんだよな。MASATOくんともイベントがきっかけだったね。俺は、Neetz(KANDYTOWNのビートメイカー)と小学校の頃からずっと一緒にサッカーをやるような友達で。彼がKIKUやMASATOくんの通ってた和光(高等学校)の人たちと仲が良かったんですよ。で、それで俺も仲良くなりました。
KIKUMARU Neetzのマイメンって紹介されたんですよ。「あぁ、DJなんだ。俺、ラッパー。え、地元一緒じゃん?」みたいな出会いですね。で、曲作ろうってなって。
Minnesotah 当時、高2とかだったよね。俺は和光の人たちが何かやってるってのは知ってたんですけど、公立の学校に通ってたんで、どっちかっていうとRyohuくんとかB.S.C.と仲良くしてたんですよ。それで、BANKROLL(KANDYTOWNの構成グループの一つ。B.S.C、Dony Joint、IO、DJ MASATO、Ryohu、YUSHIが所属するクルー)のパーティとかにも遊びに行ってました。
KIKUMARUさんとMASATOさんは幼馴染なんですよね。
MASATO KIKUと俺は小学校からずっと一緒なんです。
KIKUMARU 俺がヒップホップに興味持ったのも、YUSHI(KANDYTOWNのメンバー。2015年2月に逝去)とかMASATOに教えてもらったってのが大きかったですね。
MASATO 俺は兄貴がヒップホップ好きでよく聴いていたから、そこから影響されました。同時期にYUSHIもBillboardとかMTVとか最新のヒップホップに興味を持ち始めて。二人ともめちゃくちゃ影響されたので、周りにも教えなきゃってモードになったんだと思う。
KIKUMARU YUSHIは小6ぐらいからすでにB-BOYだったからね。当時、ファッションの参考によくしていたな。
KIKUMARU 俺とMASATOは当時、くそダボダボな服ばっかり着てたんですよ。俺らはXXLのシャツ着て、連れはドゥーラグ巻いて、メガネかけて、New Eraのキャップ被って……みたいな(笑)。エミネム、50centとかその頃、流行ってたヒップホップをよく聴いてましたね。
MASATO ソウルとかファンクみたいなものに興味を持ち始めたのは、00年代にカニエ・ウェストの影響が大きいです。古いレコードを早回ししたトラックを作ってて、カッコいいなと思いました。そこから元ネタも聴くようになったんです。
KIKUMARU 中3の時にYUSHIが「MASATOがDJで俺とお前らはRAPね」みたいに言い出して。全然、ラッパーじゃない奴らにもリリックを書かせて……みたいな感じのスタートだったんで(笑)。やっぱ遊びの延長だよね。
MASATO KIKUは今も昔も行動力半端ないですね。有言実行という言葉がぴったり合う。あの頃は毎月1枚、作品を作ってたよね。そこにみんながフィーチャリングで関わってて。自分のラッパーとしてのスキルを高めていくっていうのを意識してやってたよね。
KIKUMARU 俺はラッパーとして活動し始めたのが、KANDYTOWNの中では遅い方なんです。BANKROLLを観て「ラップしたい!」って思ったんです。だから、とにかく音源を作りまくって上手くなろうって、常に思ってましたね。毎月1枚出してたのは、20歳ぐらいの時ですかね。焼いたCD-Rを周りに配ってた。懐かしいな(笑)。
MASATO 覚えてるわー。「KIKUMARU~月号」みたいな感じだったよね(笑)。
KIKUMARU MASATOとMinnesotahのDJはずっと観てきたから信頼していて、大事なときは絶対二人を呼ぼうって決めていました。今でこそ少しずつ増えてますけど、あの頃はレコードを2枚使いでDJをやってる人って、俺らの世代ではなかなかいなかったんですよ。バックDJを一番やってくれたのは、Minnesotahですね。毎月7本とかライブしてた時期もあって。気合い入れすぎて、出番が15分ぐらいなのに、8時間ぐらいスタジオでリハしてたこともあったよね(笑)。
Minnesotah あったね(笑)。でも、時間が過ぎるのすごく早かったよね。あぁ、もうリハじゃんって感じ(笑)。リハのままのテンションでやったらいい感じにできたから、あの日のライブはよく覚えてる。ブチかましたって感覚があった。
KIKUMARU 「この曲できたから」って新作をそれぞれに渡すと、別の曲を提案してくるんですよ。MASATOだったら「この曲はThe Rootsのインストが合うんじゃないか」とか、Minnesotahだったら「Madlibでやろうよ!」みたいな。それぞれの個性があって、それがすごく面白いんです。
Minnesotah 俺もMASATOくんもソウルやファンクが好きだし、レコードでDJするけれど、スタイルは全然違うなぁって思います。
KIKUMARU 二人の今回の『Blue Note』のMIXをまだ聴けてないんですけど、今から仕上がりがすごく楽しみです。俺のファーストアルバムのリリース時に、MASATOがタワレコの特典として製作してくれた『SOUL CITY』ってMIX CDがすごく好きで。ボブ・ジェームスの上でラップしてるんですよ(笑)。MinnesotahのMIXはジャケットもクールでカッコいい。二人のスタイルって確かに違うんです。MASATOはキラーチューンを必ずどこかで入れてくるし、Minnesotahはコアな曲の扱い方がすごくうまい。すでに知ってるものの新しい感覚を教えてくれる人と全く知らない分野を教えてくれる人って感じがするな、二人は。
『711』と『KANDYTOWN LIFE presents “Good Old Soul –Love and New Note” mixed by MASATO & Minnesotah』
7月11日にリリースされる『711』にはエグゼクティブ・プロデューサーにKANDYTOWNのメンバーであるRyohuさんが参加されているほか、錚々たる面子がフィーチャリングされていますね。
KIKUMARU Ryohuにアドバイスしてもらったのはデカいですね。今作は音楽的にいいものにしたいって思いがあったから。Ryohuは仲間内の中でも、一番そういうところにアプローチできているラッパーだと思うんです。
7月11日って、KIKUMARUさんの誕生日なんですよね?
KIKUMARU そうそう、仲間もたくさん参加してくれて。7月11日は“セブン・イレブン”だから「いい気分」ってことで『Feel Good』ってタイトルにしようって案もあったんですけど、最終的にダサいなって思ってやめました(笑)。昔から〈ラルフ・ローレン〉が大好きで、ブランドが創業したときのマンハッタンのアドレスが“711”だったんです。そういう運命も感じてるんです、『711』に。
Minnesotah 『Feel Good』よりかは『711』の方がKIKUっぽいよね。
MASATO アルバムを聴いてみると、全然『Feel Good』ではない(笑)。
KIKUMARU 今回、MASATOには曲順の相談とか、最初にビートを集めている段階から「これどう?」みたいな話をしていて。曲が完成してから、また「こういう流れはどう?」ってアドバイスなどももらいました。今回の曲順は出だしはキャッチーにして、間で黒い感じをいれつつ、メロウなものもあって…と、飽きない流れになってるんじゃないかなって。
KIKUMARUさんにとっては2年ぶりの作品ですよね。
KIKUMARU 年に1回は出したいっていうのはあるんですけど、KANDYTOWNでも活動しているので。去年の9月にEPを作ったんですけど、その時に仲間たちとか周りのやつらに「このビートよくない? 曲作らない?」ってノリで相談して。EPもできたし、次はアルバムだなって感じで出しました。
MASATO 今回は曲がある程度完成したら、すぐに聴かせてもらってたんですよ。聴くたびにどんどん良くなってて。KIKUのマスターピース的な一枚になったんじゃないかな。
KIKUMARU 突き詰めていくって、すごく大事なことなんです。Ryohuはラップを始めたばっかりの時から、クソうまくって。俺はそうじゃないから、やった分だけ上手くなるタイプなんだと思う。
MASATOさんとMinnesotahさんは7月25日にBLUE NOTEの音源をミックスした、『KANDYTOWN LIFE presents “Good Old Soul –Love and New Note” mixed by MASATO & Minnesotah』がリリースされますね。
Minnesotah 二人とも好きなものが被っているので実現したんです。前作(ATLANTIC RECORDSの創立70周年を記念して制作されたミックスCD、『KANDYTOWN LIFE presents “Land of 1000 Classics” mixed by MASATO & Minnesotah』)のときもレコード会社の方が声をかけて下さったんです。
MASATO 二人でやった方がチームプレーができるんですよ。お互いのいいところを伸ばしたり、足りないところをカバーし合うことができる。
どういう方向性で、今回はミックスをしようと考えたんですか? 資料には「夏に合うような、ひたすら気持ち良いアルバムにしたかった」と書かれていましたが。
MASATO 最初はひたすらメロウで、気持ちいいミックスにしようって話をしていたんですけど、それだと散々やり尽くされているので。それに対して、どういう違いをつけるのかってことを意識をして、幅広く選曲しましたね。
Minnesotah 縛りとしては抜けている年代を作りたくないっていうのがあって、ロバート・グラスパーとかを入れましたね。全体を通してグルーヴを作りたかったんです。
MASATO ジャズ好きのおじさんがあんまり好きそうじゃないものを入れようっていう、裏コンセプトもありましたね(笑)。
もともと完成していないからこそ、壊れようがない。
それぞれのソロワークスとKANDYTOWNの作品だと、向かい合うアーティストとしてのアティチュードみたいなものも違ったりしますか?
Minnesotah ソロは自分をより出せるなって思いますね。KANDYTOWNはそれぞれのベスト盤的な。それぞれの個性のいいとこ取りです。
MASATO KANDYTOWNは、一人一人が違うからいいものが作れるんだよね。
KIKUMARU KANDYTOWNが大事にしているものは“ソウル=魂”だと思う。ルーツもそれぞれ違うけれど、俺らには俺らのソウルってものが共通していて。でも、ソロの作品もKANDYTOWNなんですよ。だからダサいことはしない。全部、KANDYTOWNにかえってくる。逆も然りで。
Minnesotah ずっと一緒にいるから、そのバランスが崩れないんだと思う。
KIKUMARU KANDYTOWNって、もともと完成してないんですよね。だから、壊れようがない。
KANDYTOWNとしてのセカンドもリスナーは心待ちにしていると思います。今後やっていきたいこととか、展望などはありますか?
KIKUMARU 何がやりたいっていうのは、具体的にあんまりないかもしれないです。でも、作品を出すたびに、好きだったラッパーとかDJの人と対談させてもらう機会が増えてて、どんどん目指すところに近づけているっていう自信はある。もっともっとコンスタントにKANDYTOWNとしてもソロとしても曲をリリースしていきたいなって思っています。
MASATO これまでやってきたような活動をこれからも継続していきたいです。あと、レコード文化が同世代の中では当たり前のものではなくなってきているので、レコードを手に取る人を……増やすっていうと大げさだけど、このレコード文化っていうものを残すための一助になれるような活動をしていきたいなとは思ってます。
Minnesotah 自分の世界観みたいなものはこれからどんどん作っていきたいなって。MASATOくんやKIKUが言ってたように、下の世代にいつか憧れられる存在にはなりたいなって。俺らをみて、アナログレコードでDJ始めましたみたいな子が出てきたら、最高ですよね。