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ごちそうさまに生きる人。   日山畜産 村上 聖

The interview of FOOD People

ごちそうさまに生きる人。 日山畜産 村上 聖

世界でも有数の食の国、日本。人びとの関心は常に高く、新しいお店が続々と誕生しています。では、どんなひとたちがいまフード業界を支えているのか? そのなかでもフイナムではスタイルをもったひとたちに注目しました。たしかにおいしい食事はただ味わえればいいという考えもありますが、映画や音楽と同じく、その食事に込められた想いやつくるひとのストーリーを知ることは、その一品をより複雑に味わい深く楽しませてくれるはず。今回は、畜産農家とお店とをつなぐ食肉卸売業の日山畜産の若き社長にインタビューしました。MBAを獲得したという珍しい経歴をもち、現在の評価軸である“見た目”ではなく、“味”という新しい価値を提唱するその熱き思いとは?

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村上 聖/「株式会社日山畜産」代表取締役 社長

1981年生まれ。1912年に食肉販売畜産業をスタートした老舗企業、日山グループ「株式会社日山畜産」代表取締役。3年ほど商社に務めた後に「日山畜産」に入社。その後、代表に就任。同時期にMBAを取得。都内焼肉店のなかでも随一の人気を誇る「よろにく」が仕入れる肉とあって、食通の間でもその名を広めた、高級和牛に特化したの食肉卸売業の四代目。

高校時代の狩猟経験がいまの僕を作った原体験。

いま思えば、高校時代に留学していたカナダでの経験が、僕を作った原体験かもしれません。カナダでは週末に、ホームステイ先のホストファーザーのお手伝いとして、ハンティングに連れていってもらってました。グースや鹿を撃ち、それを家に持ち帰ってガレージで吊るし、内臓を取り出して、皮をはいで…という作業が、僕の原点ですね。

あの頃は家業を継ぐなんて思ってもみなかったし、偶然そのホストファミリーにお世話になったのですが、ハンティングや捕った獲物をさばいたりすることが日常で、毎日、学校から帰ってきたら薪割りするのが当たり前だったんです(笑)。そこでいろんな肉を食べましたし、ハンティングを通して「命をいただく」という感覚が身についたのだと思います。

東京食肉市場内にいながら、MBAを取得。

僕には兄もいるので、昔から家業を継ごうという意識はなく、大学卒業後は3年ほどサラリーマンとして商社の営業をやってました。転職を考えるタイミングで、さまざまな会社を調べていくなかで、「日山畜産は、会社としてどうなんだろう?」という客観的な視点で考えてみたんです。

それまでの商社の営業職では、「コストメリットをどれだけ出せるか?」「人にどれだけ好かれるか?」が重要でしたが、同じ営業でも食肉卸売業となると、プロ同士の仕事で、「商品についてどれだけ知っているか?」その“目利き”がモノを言う商売だと気づき、魅力を感じました。

入社前は米沢牛の畜産家の元で1ヶ月住み込みで働き、入社後3~4年は加工現場に入って、解体して骨を抜いたり、先輩の包丁を研ぐとこからスタートしました。その後、営業で商品知識を高め、現場の衛生改革を行い、『SQF認証』を取得。それから少しして代表に就きましたが、その頃に東日本大震災があって、会社の業績は低迷。「家業を継ごう」と決めたものの、自分には経営知識がないという焦りもあり、会社に通いながらMBAを取得しました。

ビジネスを俯瞰して見たことで気づいた、目利きという価値。

MBAのスクールに通い始める前は、「和牛は相場が高いから、儲からないんだ」と目の前の問題ばかりを見ていましたが、スクールでは他の業界の事案を学ぶので、少しずつビジネスを俯瞰して見られるようになりました。

例えば、僕は東日本大震災後の会社の業績に悩んでいましたが、過去をいろいろ調べてみると、他の業界で似たような状況に陥ったケースもありますし、牛肉業界では2001年にBSE(牛海綿状脳症)、2010年に口蹄疫と、数々の問題が起こり、口蹄疫の終息のため、宮崎で29万頭の牛が殺処分されています。牛の妊娠・出産は人間と似ていて、周期が10ヶ月ほどかかり、一度のお産で1頭しか生まれないため、頭数が大幅に減少し、価格は急激に高騰、業界全体で業績は低迷する一方でした。そういった逆境で勝ち抜いていった会社を調べて、その切り抜け方をヒントにしたり。

スクールの講師陣は著名なコンサルティング会社の社長など、実学で学んできた先生たちばかりでしたし、クラス全員で自分たちの仕事の難点を吐き出し合い、みんなで議論して考えるので、授業だけでは終わらず、そのあと居酒屋に行って、また議論して…なんてこともしょっちゅうでした(笑)。

そうしてビジネスを俯瞰して見られるようになって、「うちの会社の価値は何なのか?」を改めて考えたときに、「目利きという価値があるんじゃないか」と、気づきがあったのです。

生産者と消費者をつなぐのは、食べて美味しいか? という真の評価。

農家さんは、自分が出荷する野菜を「今年の出来はどうか?」と味見できますが、牛の生産者さんは、育てた牛の味見はできない。極端にいうと、生産者さんの評価は、見た目だけの競りで「1kgあたり何千円の評価が付いたか」でしかなかったのです。でも僕は、家畜といえど食べ物なので、消費者が食べてどうだったかこそ評価なのでは? と考えるようになりました。

そこで、うちが買った牛は全部食べて、一頭一頭、香りはしっかりか? さっぱりか? 脂質はサラっとしてるか? コクがあるのか? 味わいは淡白なのか? 濃厚なのか? など、評価を細かくつけるために、「日山ノート」をつけるようになったのです。すべてデータ化し、個体識別番号を打てば、その情報が見られるようにして、統一の評価基準を消費者に伝えたい。そうしていつか、和牛もワインのような感覚で「この牛の味は…」と評価して楽しむような文化にしていけたら、それが生産者さんのモチベーションにも繋がっていくと思うんです。

さらに現在は、毎月地方の生産者さんを回って、この生産者さんがどんな牛を目指しているのか? どんな餌をあげているのか? などを個別にインタビューし、「日山ノート」に情報を追加。もちろんまだ全部は回りきれていないのですが、今月は山形県と宮城県で10数件の生産者さんを訪ねてきました。結果として、血統や月齢(年齢)、産地の結果からデータ分析すれば、例えばこの血統とこの血統同士を掛け合わせるとおいしい、というような結果も期待できます。今度はそれを生産者さんへフィードバックしていけたらいいですね。

日山畜産

「すき焼割烹 日山」「食肉の販売 日山」といった小売店などをグループ会社にもつ、食肉卸売業。
hiyama-mc.co.jp

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