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ごちそうさまに生きる人。 とんかつ とんき 目黒本店 吉原出日

The interview of FOOD People

ごちそうさまに生きる人。 とんかつ とんき 目黒本店 吉原出日

世界でも有数の食の国、日本。人びとの関心は常に高く、新しいお店が続々と誕生しています。では、どんなひとたちがいまフード業界を支えているのか? そのなかでもフイナムではスタイルをもったひとたちに注目しました。たしかにおいしい食事はただ味わえればいいという考えもありますが、映画や音楽と同じく、その食事に込められた想いやつくるひとのストーリーを知ることは、その一品をより輝かせてくれます。今回は、目黒のとんかつ屋「とんかつ とんき 目黒本店」の3代目にインタビュー。老舗でありながら、“街の定食屋”として、近隣、遠方を問わず多くのお客さんから愛されている同店。古き良き時代のとんかつ屋を継承する、その心構えとは。

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吉原出日(よしはら・いずひ) / とんかつ とんき 目黒本店

1975年生まれ。1939年の創業から80年続く「とんかつ とんき 目黒本店」の3代目。創業者の孫にあたり、現社長は叔父。大学卒業後は、消防設備点検の会社を経て、29歳から「とんかつとんき 目黒本店」で下積みを重ねる。今年3月で15年目を迎え、厨房では中央のカツ切りを担当する一番の花形だが、本人曰く「何十年と勤めている熟練のスタッフが多いので、15年目なんてまだまだヒヨッコ(笑)」なのだそう。

ペコペコのお腹も、お客さんの「また来たよ」で、満腹に。

実は自分が働く「とんき」を、“素敵な店”と思えるようになったのは、つい最近のこと。

“老舗”とはいえ、昔はとんかつ屋の息子なんて、みんなにからかわれるもので、同級生からのあだ名は「とんき」。部活の先輩からは「おい、トンカツ」と呼ばれたりもしました(笑)。今ではその方々がお客様として来てくださってるのでありがたいのですが、当時は継ぐ気になんてまったくなれませんでした(笑)。

大学卒業のタイミングで、父から「どうする?」と聞かれたときも、当時は消防関係の仕事を目指していたので、「やらないよ」と即答してましたし、そもそも、29歳で店に入るまで、「自分がお腹ペコペコな時に、ご飯を出す仕事なんてできるわけない」って思っていたほど(笑)。でも店で働きだしたら、いくらお腹がペコペコでも、お客様からの「また来たよ」って言葉で、不思議と満腹になるんですよね。

ツテでスタッフが入ってくる、昔ながらのスタイル。

ここ数年でやっと「素敵な店で働いているんだな」と気づけたのは、親子3代、4代、5代と、長~く通ってくださるお客様が多いだけでなく、従業員やアルバイトも本当に長く働いてくれてるなあと感じて…。いろいろ不満は出ますけど(笑)。

定年を優に超えた熟年スタッフもたくさんいますし、例えば高校1年からアルバイトで入って大学4年生までいてくれる子もけっこういて。さらに「私は就職するんで」と、その子の妹を紹介してくれたり。別の子は、「土日に自分が働かなくてすむように」とその弟をアルバイトに入れてくれて…、身代わりみたいなものですね(笑)。もちろんすぐ辞めてしまう子もいますが、ツテでスタッフがこんなに入ってくれるのは今の時代は珍しいことですし、それだけ安心して働いてくれてるのかなって感じます。

そういったことも含めて、トンカツの作り方から、掃除の仕方まで、初代から続く「とんき」のほぼすべてを、自分の代でも守っていきたいです。今でも手書きの“正”の字で「ロース何枚、ヒレ何枚」と注文を受けています。唯一変えたことといえば、最近レジをiPadにして、全メニューの集計をオートメーション化したこと。簡略化して便利にできることはして、接客や調理、掃除などにもっと時間をかけていきたいと思っています。

お客様の評判も高いカウンターは、うちの名刺代わり。

とくに掃除と接客に関しては、初代からうるさいくらいに言い聞かせられていました(笑)。1階の檜のカウンターは、必ず毎日タワシに石鹸をつけて洗いますし、カウンターの中のスタッフ側の床に敷いているスノコも、トンカツを揚げる大きな鍋も、毎日時間をかけて洗います。油を使うお店が油っぽいんじゃ、どうしようもないですからね。現在の目黒駅西口のキオスクあたりにあった元の店舗から、このビルに移って50年ほど経つのですが、いまだにたくさんのお客様から褒めていただくカウンターは、まさにうちの名刺代わりです。

初代の頃から続けていて、お客様から褒めていただけることで、もう一つ。うちの店では、入店する順番がマチマチでも、お料理を出す順番が狂わないように、スタッフ全員がお客様一人ひとりのお顔や雰囲気の特徴を捉える経験を積んでいるのですが、こういった部分も絶対にオートメーション化したくありません。

僕もそれによって人の顔を覚えるのが得意になって、毎月来てくださるお客様の「また来たよ」という言葉を噛み締めることができています。細かいことですが、あの人はカラシが嫌いだったなとか、豚汁にネギ入れたくないって言ってたな…とか。それは、下げるお皿を見ればわかります。完璧にはいかなくても、次回来ていただいたときに生かせれば、「おおっ!」とお客様の方がびっくりして喜んでくださったりする。ドッキリを仕掛けてるつもりではないのですが、このカウンター越しのやりとりが、嬉しいんですよね。

とんかつ とんき 目黒本店

東京都目黒区下目黒1-1-2
03-3491-9928

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#FOOD
# People who live for the feast
# Hood
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