より多くの人に、スパイスの魅力を伝えたい。そんな思いが高じて始めたのが、「エピス ギンザ」です。100種類以上のスパイスを揃え、30ヶ国の料理やお菓子をお出しする、というのをウリにはしていますが、私が本当にやりたかったのはスパイスを介して人をもてなすこと。自宅に人をお招きするときと同じような寄り添った空間を提供したいので、1日1組限定、紹介制にしています。
お客様がお店にいらっしゃったらまずお話をして、その日の様子や体調を把握してからメニューを組み立てます。そして、一品ごとにテーブルに運び、その料理に使ったスパイスの特徴と料理の背景をお伝えします。「食べる」ということは命を預ける行為なわけですから、きちんと思いを込めて作りたい。それに、レストランでの食事に慣れたお客様ほど、自分に向かって料理をしてもらえると嬉しいんじゃないかな、と思っています。ほかにはない、特別な体験として喜んでもらいたいですね。
お店では、スパイスのブレンド技術を身につけるためのセミナーを希望者を募って開催しています。私自身は子どもの頃からスパイスに囲まれた生活をしていたから、今では作る料理や自分の気分・体調に合わせて感覚で配合できますが、一般の人がいきなりスパイスをブレンドすることは難しい。たとえば、料理に合わせて胡椒を感覚で選ぶことがありますよね。ステーキなら粗挽きがいいし、ラーメンには粉末が合う。それと同じように、スパイスの配合も感覚で選べるようになるための手助けを、自分はしていきたいなと思っています。
日本人は真面目だからレシピを覚えようとするし、使い方に決まりがあるように考えがちだけど、そうではなくて、本当はもっと自由なもの。極端な話、私は、いつも感覚でスパイスを配合しています。自分の体調や、一緒に食べる人に合わせて、常にスパイスの調合を変えているからです。
ただ、「自由」ってなんでもいいわけではありません。カレーにしても、ソーセージにしても、それが作られている地域の文化や背景を知り、スパイスの各々の香りや特性を覚えたうえで、自由な配合を楽しめるようになる。ある一定の基礎がないと、自由とは成り立たないものだと私は考えています。