コロナ禍で浮き彫りになった、春物在庫とセール問題。
ー お決まりの質問ですけど、自粛期間中ってどう過ごしていましたか?
Fujii: 基本は自宅でリモートワークでしたね。仕事以外は自宅の庭の手入れをずっとやっていたんですが、〈ブランドストーン〉を履きすぎたらソールが割れてしまって。修復できなくて、初めてブーツを捨てることになったという(笑)。あとは庭関連でホームセンターにめちゃくちゃ行きました。電動ドライバーを〈ボッシュ〉から〈マキタ〉に買い替えたりして。
ー 各ブランドが展示会を含めて今後の運営を模索しているなか、〈ノンネイティブ〉はどう考えましたか?
Fujii: いろいろなブランドで秋冬が立ち上がってきましたが、〈ノンネイティブ〉は秋冬じゃなく冬春としていて。今季のルックブックを見てほしいんですが、シーズン括りではなく「38th COLLECTION」となっているでしょう。そこにはぼくなりのメッセージ的なものを込めました。秋は「DWELLER」という定番シリーズだけに絞って、冬からスタートというか。今回紹介しているルックはそれです。冬物のルックは9末頃に発表します。乞うご期待です(笑)。
ー コレクションシーズンを秋冬ではなく冬春に変えた理由としては、何が大きいんですか?
Fujii: 3月、4月とリモートしながらサンプルを待つ間、色々考えてみんなで分析したなかで出てきたのは、店も閉まっていて春夏物を売ることができないなか、さらに8月の猛暑の時期に秋物のアウターを入れていいものなのかということ。だから、この際秋を飛ばしちゃおう!ってことになり、そこで秋に予定していたアイテムを春物にしようと決めました。いまよりも厳しい状況のなかでの展示会だったので、オーダー頂ける数量も当然下がると思っていたので、どうせならこの機会をポジティブに捉え、秋冬展を冬春展にしました。さらに、春物のアウターってコロナは関係なく毎年問題になるんです。どのブランドもそうだと思うんですが、4月~5月くらいになると売れないし、かと言って梅雨になっても売れるものでもない。よく考えると、SSコレクションって毎年2月くらいに始まるでしょう。実売期は1~2ヶ月くらいしかなくて、このサイクルは何なんだろうと。それを1月の頭にスライドにすることで解決策になるんじゃないかと。
ー たしかに春物のアウターは着る時期も難しいですね。
Fujii: あとは秋冬のセールは、どうして1月なんだろうっていう。卸先様には、冬物のセールを2月からお願いし、春物のセールを5月とシーズン毎のセール時期をお願いしました。手間はかかりますが、そうすることでプロパーでの販売時期が長くなるとともに、気候的にはオンタイムになるのではないかと思っています。この件に関しては同意していただけるお店と、そうでないお店に分かれたのも事実です。でも、このコロナ禍では年中セールみたいな状況が続いているでしょう。ぼくらもクーポンを配ったりして、上代(定価)の意味を考えさせられました。〈ノンネイティブ〉はいつからかシーズンの展示会が遅いブランドと言われるようになったけど、実はずっと変わっていないんです。そこにはパリコレの情報とかが、SNSを通じて身近になり過ぎている影響もあると思います。
ー 〈ノンネイティブ〉のような緻密につくられている服は、パリコレやニューヨークコレクションのスピード感とはまた違うんじゃないかなと。
Fujii: そのスピード感のなかだとどうしても展示会が遅いと言われたり、目に見えない競争のなかで服とじっくりと向き合うこともままならなくなってきていて。。自分もいつからか様々な疑問を引きずりながらやってきていたような気がします。どんどん色んなことが早い者勝ちみたいになってきてて、そうすると気づけばセールになって余ってしまうでしょう。昔はデザイナーズブランドとドメスティックブランドが分かれていたけど、今は一緒になってしまっていて、コレクションを発表する形と時期が違うだけというか。それに昔は『gap Press MEN』みたいな専門誌に出ると注目されたけど、今は雑誌が出る前よりも情報に触れることができる。そういう意味でも、自分たちのサイクルを変えるならば、このタイミングしかないなと思って。
ー かなり勇気が要る判断だったんじゃないですか。
Fujii: そうですね、これまでの流れを大きく変えてしまうから。でも、極端に言えば、展示会すら今後なくなるかもしれないとも思います。実際に、〈ノンネイティブ〉もプレゼンテーションに寄ってきているけど、ずっと疑問に思ってきたことを見過ごせなくなって。だから、秋冬の展示会ではなく何か違うことをやっていこうと。
"I'm not sure I want to...COVERCHORD」(〈ノンネイティブ〉を手掛けるTNPが運営するオンラインショップ)で〈ノンネイティブ〉でも人気の型がセールになっていて驚きました。
Fujii: コロナで「vendor」が閉まってからはスタッフも「カバーコード」のオフィスに出勤するようになって。閉まったままだと服だけがどんどん溜まっていってしまうでしょう。今年に限って、〈ノンネイティブ〉は8月に革ジャンやダウンベストを販売するべきなのかと。リアルに寒くなってきたときでいいはずだから、これからは春夏の在庫をなるべく長く提供できるようにしていかないと。それができなければ、健全な姿に戻れないと思いました。セールになっていくサイクルを見ていると、うんざりします。
ー 消費者としても、なんで定価で買ったんだろう?と不満に思ってしまう部分もあります。
Fujii: ぼくらも一度は、今の世の中に新しい服なんかいらないよね、というところまで行ってしまいました。それよりも大事なものがたくさんありすぎるから。今は借金をしてまで洋服を買う時代ではないし、かといって、低価格の服で済ますということでもない。うちの洋服は正直地味目ではあるけど、より必要とされるときがくるとは思っていて。そうは言っても、展示会をやることにはめちゃくちゃ悩みました。時期的にもやってはいけないムードだったし、全部つくってしまったからどうしようと。だから今回はアポイント制にして、どうしても来れない卸先様にはスカイプで対応して。いつも展示会期間はたくさんの人たちでショールームが賑やかなのに、シーンとしていて不思議な雰囲気でした。