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Yuta Kaji's Movie Fortune Telling -Tsugumi's Case
Everybody's Weird

Yuta Kaji's Movie Fortune Telling -Tsugumi's Case

スタイリストの梶さんは映画好き、おしゃべり好き、そしてひとに何かをお勧めしたがりのスタイリストです。あるイベントで生まれた「映画占い」は、そんな梶さんが占い師となり、お客さんの悩みを聞いて映画を処方するという、その言葉通りの催し。
東京の桜は一瞬にして散ってしまいましたが、儚さを感じるのもつかの間、気温があたたかくなり絶好の占い日和です。今回はゲストにモデル、俳優のTsugumiさんをお迎えして、梶さんがあれこれ聞きながら占います。好きな作品や作家にそのひとの人柄が透けて見えるものですが、その背景が見えるともっとおもしろい!

  • Fortune Teller(Interviewer)_Yuta Kaji
  • Photo_Harumi Obama
  • Illustrator_Naoyuki Yoda
  • Edit_Yuri Sudo

PROFILE

GUEST
Tsugumi

2000年東京都生まれ。2016年の高校在学中よりモデル活動を始める。数々のファッション雑誌、ブランドのショーやルックブック、広告に出演。2019年にはパリコレクションにも出演。趣味は写真、ギター、歌、映画や舞台観賞。現在は俳優としても、活躍の場を広げている。
Instagram: @tsugumi_jp

PROFILE

FOTUNE TELLER
梶雄太

1974年東京都生まれ。アシスタントを経て、1998年からスタイリストとしてのキャリアをスタート。雑誌、広告、映画など幅広く活動する傍ら、映像制作や執筆などジャンルを問わず表現をし続け、2020年には自身のブランド〈SANSE SANSE〉を立ち上げ、ディレクターを務める。
Instagram: @yutakaji_

温度が濃い。

梶: 今日はありがとう。

Tsugumi: Thank you very much.

梶: 久しぶりだよね。

Tsugumi: お久しぶりですね。

梶: 僕の最初の映画祭に来てくれたのが最初だよね。

Tsugumi: あれは知り合いが誘ってくれたのと、あとK2(下北沢の映画館)に行ってみたかったっていうのと、あと『ソラニン』はDVDでは観てたんですが劇場で観たことがなかったので、それで。

梶: そっかそっか。レンタルビデオ時代ね。ってことは観たのは何歳のときだ?

Tsugumi: 中学か高校だと思いますね。

梶: その時『ソラニン』を観ようと思ったのってなんでなんだろうね。

Tsugumi: なんでだろう。元々映画自体は好きでいろいろ観ていて、(浅野)いにお先生も好きでしたし、宮崎あおいさんもすごく好きで。そんな理由でたぶん観ようってなりました。

梶: あれは俺が映画を選ぶキュレーションっていうか、映画をセレクトする映画祭なんだけど。 『ソラニン』は俺がスタイリングをしたんだよね。たまたま原作を読んだタイミングがあったんだけど、漫画の中のスタイリングがすごくよくて、これが映画化されるんだったらスタイリングしたいなと思っていたら、数年後に依頼がきて(笑)。本当に偶然だったし、映画のスタイリングはやったこともなかったんだけど、受けたの。ちなみに、その世代の王道になるものってあると思うんだけど、そこに浅野さんは属してはいないでしょう。みんなが知ってるわけではない。どうやってたどり着いたの?

Tsugumi: これ言ったらあれですけど、みんな知らないでしょみたいなことを探るのが好きで、アーティストも、中学生からずっと銀杏BOYZが大好きで、周りにそれを知ってるひとはいなかったし、それに悦を感じた部分もあって、 映画も、漫画も、音楽も、なんかちょっと泥臭い感じというか、惹かれてた部分もあったかな。

梶: じゃあ僕とTsugumiさんと知り合ったきっかけは『ソラニン』ってことになるね。

梶: ファッションの仕事でも一緒になったことなかったけど、映画祭に現れてくれて、そこで初めましてで、俺もそこから活躍を知って、それで今回。いまはモデルさんだよね?

Tsugumi: そうですね、モデルを15歳ぐらいから始めて。ここ数年、お芝居とかもやっていて。

梶: そうなんだ。じゃあメインはモデルだけれども、それ以外のこともすこしずつやりだしている状況で。

Tsugumi: もともと表現のお仕事がすごいしたくて、だからモデルに関わらず、映画も歌もできそうなところで、自分が好きなひとがいる事務所にしようと思って。3個ぐらい候補を挙げて、最初に連絡して決まったのが今の事務所なんです。ハイファッションの事務所なんですけど。全部やりたいって気持ちで入ったんですけどはじめはそうもいかず。ずっとお芝居もやりたいと言い続けて、いろいろあっていまやっとできるようになったって感じです。いまは芝居は別のマネージメントでやってます。

梶: それはあれだね、一途っていうか。ほらみんな環境のせいにするひとが多いじゃん。でもそこに恩義を感じてるとか、何か理由があるのかな?

Tsugumi: もちろん恩義も感じてますし、何もわかんない状態から育ててくれたし、本当に親みたいな感じだったんですよ。それにファッションの仕事を辞めたいって気持ちが全然なくて、シフトするっていう気持ちも特にないので。ファッションを続けながら芝居もやることで、どっちにもいい影響を与えつづけたいと思ってて。

梶: ある程度物心がついて、モデルを極めようっていうのは自分の判断だよね?

Tsugumi: そうですね。わたし中高一貫校で、高校に上がるための校長面接っていうのがあったんですよ。一応試験もあって面接もあって、みんな大体上がれるみたいな感じの。でもわたしは試験終わっていざ校長面接だって日に、お昼食べながらやめようと思ったんです。そのまま学校に行ったらモデルの活動ができないっていうのをたぶんふと思って、面接受けないですって言って。きっかけというよりは、なんかパッとやめようって思いました。

梶: モデルの仕事は自分的にどう?

Tsugumi: 合ってるとは思いますし、求めてくださることもやっと最近わかってきたというか。振り返って考えてみると、これしかなかったんだろうなと思ってて、入口的にも間違ってなかったなというか。最初は映画とかお芝居とかもずっとやりたかったので、なんで最初からそれができないんだって思ってたし、そこに対しての劣等感はあったんですけど、最近これで間違っていなかったなと思えるようになってきました。

梶: じゃあちょっと今までと違う質問なんだけど、その仕事と逆にプライベートのバランスってどんな感じ?

Tsugumi: 自分のこと自体はすごくネガティブなんですよ。ひとと会ってる時は超楽しいんですけど、1人になった時とか、基本的に自分で考えることに関しては超絶ネガティブで。だからいち被写体として、いち別人として、傍から見た時はいいところも悪いところも挙げられるんですけど、自分で考えるともう悪いところしか見えないんですよ。

梶: 個人として考えるとね。

Tsugumi: そうそう。今の状況も、自分のこともあんまり好きではないけど、自分に付随することはすごく好きで。友達とか、仕事とかでめっちゃバランスをとってます。

梶: ちなみにオフの時はどうしてる?何に時間を使ってる?

Tsugumi: けっこう最近は特に外に出るようにしてるんですよ。1人でいるとネガティブになっちゃうので。それこそ映画観たりとか、友達とお酒を飲むことも好きですし、あとはエンタメに触れてることがめっちゃ多いですね。音楽ライブ行く、映画観る、お笑いライブもすごく行きますし、そういう生で体験できるものに時間を割くことが多いかもですね。

梶: ちなみに今回はその、映画占いっていうのをベースに話を進めていきたいんだけど、 映画の入り口って自分の記憶の中で何か覚えてる?

Tsugumi: 映画の入口。冒険映画をすごく見てた印象はあって、『インディジョーンズ』とか『グーニーズ』とか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか、そういうのはちっちゃい頃死ぬほど見た記憶はあります。あと『ハットしてキャット』って知ってますか? 子供映画なんですけど結構好きで、今も観返すぐらい。そういう、ちょっとした海外の冒険系とか…。

梶: 小学生の入口としてはみんなと同じだよね。分かりやすいものから入って、途中から『ソラニン』を含めて、独自路線を歩み出すことになるじゃん。そのきっかけは?

Tsugumi: えー、なんだったんだろうな。わたしけっこう “人”スタートのことが多くて。それこそ漫画もそうですし、作家のひととか役者さんが好きで映画観ることが多くて、そこ発信なことが多いかもしれないです。

梶: 映画館で観ることが多い?

Tsugumi: 気になったやつは、基本的に映画も映画館で観たくて。一応サブスクもめっちゃ入ってますけど、止めちゃうじゃないですか。 宅配便来たとか、ちょっと一瞬トイレとか、飲み物飲みたいで止めちゃったり、挙げ句、携帯触り出して進まなくなったり。映画館って完全に全てをシャットアウトして、スクリーンだけを見るっていう、めっちゃ贅沢な時間。

梶: 本当に体感って感じだよね、映画館って。ところで何歳だっけ?

Tsugumi: 24です。

梶: 同じ世代のひとでそういう話っていうのは、割とさらっとできたりする? たとえば『哀れなる者たち』に行きました。俺は俺ですごく好きだったけど、理解できないひともいるかもしれないような映画じゃん。それに映画を生で観ることって、 みんなが当たり前に思ってる感じでもないじゃん。どっちかっていうと 珍しい。そういうのって、まわりを含めてどう感じてる?

Tsugumi: わたし、高校からそういう学校に通ってたので、友達が基本的に芸術に触れてるひとが多いんですよね。中学のいちばん古い友達とかも、そこの部分が合って仲良くしてる。まわりはけっこう話せますね。

梶: 俺に入ってくる情報だとさ、ほら、みんな映画もいま時短で、2時間とか馬鹿馬鹿しいって。そういうので済ませるひとが多い、自分のまわりにはいないけど。実際Tsugumiさんはその世代だけど、Tsugumiさん自身はそうでもなさそうだし、いわゆるそういう最近の若者像っていうものには括られてなさそうだし。でもたまたま、環境的にそういう学校に行ってて、 エンタメへのフットワークが軽い子が多い。

Tsugumi: 日常会話の中に普通に出てくる感じです。何が良かったとか、そこの感性が合わないって子はあんまりいなかったですね。

梶: いま断片的に話を聞いてきたけど、Tsugumiさんは自分に正直に常に何かを欲してるし、ちゃんとその先に自分なりの向こう側をおぼろげながら見ようとしてるわけじゃないですか。それっていうのは、たとえばどういうものがそこに作用する?

Tsugumi: 映画とか舞台とかってめっちゃ大事で。 『ソラニン』を観たときもまじで今見るべき映画だったなって思って。いまちゃんとここで巡り合えたの超良かったなっていうか。そういうタイミングっていっぱいあると思って。いろんなことを常に考えちゃうタイプなので、それをシャットアウトして、ひとの人生を頭に入れることでいろんな気づきを得てて。『ソラニン』ってちょうど23歳ぐらいの子の話で、私のまわりも芸能の仕事をしてる子でもしてない子でも岐路に立ってるひとが多くて、 転職しようかなとか、もう芸能活動辞めようかとか。めちゃくちゃ刺さったし、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の曲自体もすごく好きだったんですね。そしてあのあとに人生の中で1個転機みたいなのがあったんですよ。

梶: あのあとっていうのは、映画を観たあと?

Tsugumi: はい、あの映画のあとにあることで一度落ち込んで、音楽とか映画を求めたんですね。で、(曲の)「ソラニン」を聴いたときにこれだと思って。サビの歌詞で「ゆるい幸せがだらっと続いたとする きっと悪い種が芽を出してもう さよならなんだ」ってあるじゃないですか。

梶: 「たとえば〜♪」ってやつね。

Tsugumi: 自分が求めてた答えがここにあったと思って。やっぱり結局安定を求めちゃう部分ってあるんだけど、それをしたとしても元々そこにあった問題が結局出てくるから、今後辛いだけ。それを漠然と思ってて転機を迎えたんです。能動的にこうした方がいいんだろうな、わかんないけどたぶんこっちが絶対合ってると思って選んだことを、映画とか音楽が、ちゃんと言葉にして私に伝えてくれるところがあって。そういう意味では、やっぱりわたしの決断を左右してるのはそういう物語だった。

梶: いまTsugumiさんの情報をホワイトボードに並べていって、なんとなくって浮き彫りになってきつつあるんだけど、今だったら『ソラニン』の話をしてて、曲のなかの言葉が救いになって作用したと思う。他に自分の中で、映画に紐づく自分のターニングポイント、この映画を見たことでこういう風になったとか好きな映画になったとかはある?

Tsugumi: なんだろう、スマホ見ていいですか。いっぱいあるんですけど。何回も観てる映画ってやっぱりあって。自分のいいところだと思うんですけど、けっこう忘れるんですよね。物語もそうだし、本もけっこう量を摂取するタイプなので。めっちゃ好きな作品でも結末忘れてたりとかするんですよ。なので見直すことが多くて。……映画で『嫌われ松子の一生』ってあるじゃないですか。

梶: 松たか子だっけ?

Tsugumi: いえ。けっこうハードな映画なんですけど、すごくポジティブっていうか、コメディータッチ。とんとんとんとん、いろんなカラフルな色彩で展開がもう細かくいっぱいあるんですけど、結局最後最悪っちゃ最悪なんですよ。なんですけど、“一生” って書いてある通り、その松子の壮絶な人生をコミカルに描いてる映画で、壮絶なんですけど自分の中でしっくり来るところがあって。自分が行き詰まった時に観る映画でもあるかもしれない。

梶: 俺もかわかんないけど『スタンド・バイ・ミー』の少年4人の旅は、あの気持ちをずっとどっかで忘れないんだろうなって。10代、20代、30代、40代で見るって全然それはそれで違ってて。それを見るたびにフレッシュな気持ちになったりとか。でも『嫌われ松子の一生』はそんなにびっくりしない。洋服で言うと似合うって感じ。他は?

Tsugumi: 『地獄でなぜ悪い』ってわかります? 園子温監督の、星野源さんと二階堂ふみさん主演のやつで、スプラッターちゃスプラッターだし、どちゃくそっちゃどちゃくそなんですけど、それも何回か観てるな。なんでだろうな。人生に影響っていうよりは、それこそリセットじゃないですけど、それこそ……それこそばっかりだな。俳優の長谷川博己さんが自主映画の監督の役をやっていて、最終的に星野源さんたちがヤクザの殴り込みを撮りに行って巻き込まれるんですけど、それも全部撮るんですよ、長谷川さんが。で、結局血みどろになりながらフィルムを回収して、嬉しそうに走って終わる。その少年たちの熱はぐっとくるものがあって。

梶: 奏でる音の違いだね。好きな映画とか音楽に思考は反映されてるよね。温度が濃いっていうか。温度が濃いって表現はないんだけど。

Tsugumi: わかります、わかります!

梶: じゃあちょっと意地悪じゃないんだけど、自分の中ではさ、間違いないゾーンってもうあるじゃん。でも、そうじゃないものとかは……?

Tsugumi: 観ます、観ます、超観ます! 会話劇みたいなものも好きですし、アキカウリスマキの『枯れ葉』も含めて、ジャンルはあまり括ってないかもですね、映画は特に。受けとるものが全然全部違うので。自分がそれを観てどう思うのか感じてみたい。監督でいうと、大九明子さんがすごく好きで。綿矢りささんっていう小説家の実写化をよくやってる方なんですけど、『勝手にふるえてろ』『甘いお酒でうがい』『わたしをくいとめて』とか。テンション高めな作品ですけど、 影響をめっちゃ受けてる。

梶: 過酷な道すら飲み込めるって感じだよね。割とハードなものも多くない? それなりにずしんとしてるものすら、作品として味わえてる感じはするよね。

Tsugumi: あと、わたしホラー映画が大好きで。死ぬほど観てるんですよ。 ホラー映画は、もうほんとにエンタメ。楽しみたい。これ以上の怖さを味わいたい。で、大九さんの映画とかは、 エンタメとして楽しみつつ気づきを得たい。勉強っていう気持ちもあります。

梶: 自分が今どこに向かっているのかっていうことの参照例としての映画だったり、そういう参照例を積み上げていって、ここからどこに行こうかっていう渦中ではあるのね。

梶: 『つぐみ』っていう映画あるの知ってる?市川準監督の。仮に別の『つぐみ』っていう映画があって、Tsugumiさんが主演だとしたら、その物語がどこに行くのかもわからないってことだよね。

Tsugumi: そうですね。やっぱりひとの人生を取り入れることによって、自分に立ち返る。わたし感受性がおかしくて、ひとの相談とか聞いてるだけで悲しくなっちゃう。そのひとの気持ちになりすぎて、落ち込んじゃうタイプなので、そういう感情の振り幅がえぐいと思う。

梶: 振り幅についていけないっていうのを気づいてるだけいいんだけど、巻き込まれた時にじゃあ、自分の中でどうしようとかはあったりするの?

Tsugumi: 自分の感情をシャットダウンしたいので、お笑いとか全然関係ない映画とかを観ます。

梶: ちょっとラーメン食うみたいな?

Tsugumi: そうそうそうそう!

梶: 自分のことをすごくわかってるね。いやわかってんだかわかってないんだか(笑)。でもそこまで言語化できるってことは、年齢で判断するのもあれだけど、24歳にしてはすごく立派だな。俺はわかってなかったから。いやあありがとう、今日楽しいね。

Tsugumi: よかった〜! 映画すごく好きだし、話すのも好きなんですけど、浅い人間って思われたらどうしようと思って緊張してました(笑)

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