やる気の種。
Kaji: 観る側にいたTsugumiさんだけど、最近俳優活動をスタートさせて、演じる側ってどう?難しい?
Tsugumi: もう当たり前のように難しいし、でも楽しいです。モデルよりも前準備が多いので大変だけど、映画とドラマにすごく救われてきた人間なので現場ではめちゃくちゃテンション上がります。
Kaji: 俺も救われたと思うことってあるんだよ、振り返ると。男で言うと30からみたいなことって昔言われてて、その時に自分がどうありたいとか思うわけじゃん。そのときに観た映画が種になってたりとか、俺の場合、洋服もそれの1つなんだよね。洋服にパワーをもらったから、洋服で返したいみたいな。そういうのが礎になってる。やる気の種みたいなのを持ってるってことだね、自分がね。俳優業のいちばん最初の仕事はなんだったの?
Tsugumi: BiSHのアユニ・Dっていうメンバーがソロでやってるバンドプロジェクトで「PEDRO」っていうのがあって、それのMVのオファーが来たんですよ。もともとBiSHがすごく好きだったし、MVも出たかったし。それがいちばん最初ですね。
Kaji: 自分の中でさ、経験もないまま現場に行くわけじゃん。だって練習もくそもないでしょう。それは本番が初体験なんだ。
Tsugumi: そうですね、そのMVがけっこう特殊で。恋人視点のMVで、わたしが彼女側で。監督はドキュメンタリーのひとなんですけど、わたしが芝居経験ないことも知ってくれてて、お友達のような感覚でいっしょに夏休みを過ごす、っていう感じで撮影をしてくれたから楽しかった。緊張してたけど、ほぐしにほぐしまくってくださった。
Kaji: じゃあ、最初の入り口としてはラッキーみたいな?
Tsugumi: ラッキーです。
Kaji: そこでビギナーズラックじゃないけど、いい思いができたから、じゃあ次どうしようっていう状況か。
Tsugumi: たぶんそこで食らってたら食らってたで負けず嫌いなので、わっとなると思うんですけどね。
Kaji: 選択肢が広がってきて、より楽しい世界になってるっていう。なんか向いてそうだよね。だって、映画の名前にあるぐらいだもん。そんなのなかなかいないからさ。だから、すぐ『つぐみ 2』を撮るにはうってつけっていうか。そういう意味では今回ハッとしたんだよね、もう映画になってるじゃんっていう(笑)。種みたいのを聞いて、話せば話すほどモデルさんであることはわかるんだけど、そうじゃない魅力も引き出し方によっていっぱいありそうだなってすごく思う。モデルだけにしておくのはもったいないというか。ちなみに本はどういうものを読むの?
Tsugumi: 本はミステリー、サスペンス、ホラーが好きなんです。あとはエッセイとか。綿矢りささんだけ別枠です。ホラーは死ぬほど読んでて…
Kaji: 映画で観て、本も読んでって感じなんだね。
Tsugumi: ホラーは本の方が怖いんですよ。
Kaji: なんで?
Tsugumi: 自分の頭で絵を思い浮かべるので。だから日常に見出しちゃうんですよ。
Kaji: だれがおすすめ?
Tsugumi: もう全員におすすめしてるんですけど、三津田信三っていう作家がいまして、 そのひとが大好きなんですね。三津田先生がこの世のホラー小説家の中でいちばん怖いと思ってて、そのひとは “家怪談” が多いひとなんです。
Kaji: 家怪談。
Tsugumi: けっこう昔の話、たぶん侍がいた時期の話とか、昭和初期のやつもあるんですけど。
Kaji: 時代も関係なくいけるんだ。教えてもらおう、ほら俺怖がりなの。ホラー映画もあんまり観ないし。
Tsugumi: じゃあ私が逆に占いを(笑)。三津田先生が書いている現代怪談『怪談のテープ起こし』っていう小説がありまして、オムニバスで何個か入ってるんですけど、人生で読んだ本の中で1番怖いです。家で読めないし、現場のバスとかでしか読めないです。
Kaji: ……ひと通り楽しい話をさせてもらったから、はい、占い結果を発表します。
Tsugumi: お願いいたします!
Kaji: 今日話してみて、Tsugumiさんは『嫌われ松子の一生』とか『地獄でなぜ悪い』とか、ちゃんとヘビーなものを楽しめてる。そういうものを肥やしにできるし、悩みとか障壁があってもそれをポジティブに変えれる力があるひとなんだなと思ってて。そんなTsugumiさんに何を勧めたいかというと、成瀬巳喜男の『放浪記』っていう映画。
Tsugumi: はいはいはい。聞いたことあるな、観たことないけど。
Kaji: 林文子っていう作家が原作でね。このひとの人生をまるごと映画にしてんだけど、このひとがめちゃくちゃおもしろいひとなのよ。パリにも行ってたし。ヘビーな人生なんだけど、それを乗り越えて自分の人生を映画にしててすげえなみたいな。時代は違えども、林文子さんと通ずるものがTsugumiさんにある気がしていて、彼女の生き方に何かを感じる部分がゆくゆくはあるんじゃないかなと思って。 いま観ても、は?ってなるかもしんないし、自分から進んで観ないかもしれないから、逆に俺はそれをお勧めしたい。
Tsugumi: ありがたいです。めちゃくちゃ。
Kaji: 高峰秀子っていうひとが主演なんだけど、日本のいちばんトップ女優。世代を超えてどう伝わるかみたいのはあるから。もしかしたら合うんじゃないかな。ばっちり。ありがとうございます。
Tsugumi: ありがとうございました!楽しかったです。
梶さんがおすすめした映画
放浪記(1962)
監督:成瀬巳喜男
出演:高峰秀子、田中絹代、宝田明
幼いころから行商人である母親のきしとともに各地を転々とする生活をして育った林ふみ子。昭和の初め、東京で下宿暮らしを始め、工場の従業員やカフェのウエートレスなどする傍ら、詩作に励むようになったふみ子は、その文才を認められて同人雑誌のグループ活動にも参加。劇作家で詩人の伊達春彦との同棲、破局を経て、ふみ子は作家の福地貢と結婚するが、売れない貧乏作家である彼との生活は、これまた何かと苦労が絶えず……。
Tsugumiさんの感想
「ええ書くわ 書かなきゃ おふみは放浪記だけしか書けなかったんだって言われる 放浪記だけが私じゃないわ 放浪記だけが私じゃないわよ」
同じ言葉を2回繰り返し、2回目は自分に言い聞かせ、奮い立たせるような覚悟が滲んだ宣言で心が強く打たれたの覚えています。主演の高峰秀子さん、梶さんがおっしゃったように豊かな表情と熱量、それでいてすごく自然で実直なお芝居をされる方で惹かれました。私自身最近は全てを糧にするんだ!という強い意志を持って生活していますが、その最たるものが「放浪記」の林ふみこにも感じられました。60年代の日本映画には全く触れてこなかったのですが、どの時代でも様々な葛藤と関係と感情の交錯の中、泥臭く必死に生きている人々が今と変わらず存在していたということに力をいただきました。梶さんにお薦めしていただかなければ、見る機会がなかったであろう今の私にぴったりの根性を高めてくださる映画を紹介していただけて嬉しいです。
話題にあがったその他の作品
- 『ソラニン』(2010)
- 監督:三木孝浩 /出演:宮崎あおい、高良健吾、桐谷健太
- 『インディ・ジョーンズ』シリーズ
- 『グーニーズ』(1985)
- 監督:リチャード・ドナー/出演:ショーン・アスティン、ジョシュ・ブローリン、ジェフ・B・コーエン
- 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)
- 監督:ロバート・ゼメキス /出演:マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、リー・トンプソン
- 『ハットしてキャット』(2003)
- 監督:ボー・ウェルチ /出演:マイク・マイヤーズ、ダコタ・ファニング、スペンサー・ブレスリン
- ASIAN KUNG-FU GENERATION
「ソラニン」(2010) - 『嫌われ松子の一生』(2006)
- 監督:中島哲也/出演:中谷美紀、瑛太、伊勢谷友介
- 『スタンド・バイ・ミー』(1986)
- 監督:ロブ・ライナー/出演:ウィル・ウィートン、リヴァー・フェニックス、コリー・フェルドマン
- 『地獄でなぜ悪い』(2013)
- 監督:園子温/出演:國村隼、堤真一、長谷川博己
- 『勝手に震えてろ』(2017)
- 監督:大九明子/出演:松岡茉優、渡辺大知、石橋杏奈
- 『甘いお酒でうがい』(2019)
- 監督:大九明子/出演:松雪泰子、黒木華、清水尋也
- 『わたしを食い止めて』(2020)
- 監督:大九明子 /出演:のん、林遣都、臼田あさ美
- 『つぐみ』(1990)
- 監督:市川準/出演:牧瀬里穂、中嶋朋子、白島靖代
- PEDRO「空っぽ人間」(2020)
- 三津田信三『怪談のテープ起こし』
集英社文庫(2016)
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