昨年10月、関隼平さんがパリに自身のセレクトショップを作ったらしい。日本とフランスのメンズファッションをつなぐ拠点として満を持してオープン! みたいな感じと思いきや、訪れたそこは意外にもローカルな住宅街の中に静かに佇む空間でした。そんなショップとリンクするように、いい塩梅に力の抜けた関さんに、話を聞いてきました。
PROFILE
1979年、東京都出身。「1LDK」のゼネラルマネージャーを経て、2015年よりパリ店勤務のため移住。2016年フリーランスとなり、パリと東京を行き来しながらショップやブランドのディレクション、ショールームや合同展示会を主宰するなど多岐に渡って活動中。2019年10月、自身のセレクトショップ「PARKS Paris」をオープン。
ーショップオープンおめでとうございます。いつの間にオープンされたんですか?
2019年の10月18日です。実はこの日は、自分の40歳の誕生日だったんですよ。物件を契約したのが10月初旬で、オープン準備期間は約2週間です。「自分の40歳の誕生日にオープンって洒落てるよねー」って、気軽な気持ちでオープン日を設定してみたものの、やっぱり大変でしたね。だけど、なんとか誕生日に間に合わせたくって、がんばりました。とはいえ、本当にオープンできるか確信できなかったので、事前に特に大きな告知もせず、割とひっそりオープンしました(笑)
ーお店をオープンしたきっかけは? ブティックが集まるマレやサントノレではなく、凱旋門近くの16区って意外な場所ですね。
「jardin du l’IIony」の谷口敦史さんが、この店の隣でフラワーショップをやっているんですよ。彼から「店の隣の物件がずっと空いているんだけど、関くん、なにかやってみたら?」と言われて。そんなつもりはなかったんですが、その日のうちに物件を内見して、オーナーさんとも会ったんです。そうしたら、お店やりたくなっちゃいまして(笑)。箱自体もいい感じだし、「やりたい! やる!」って、ほぼ勢いで即決。お店やるのって大変なんで、もういいかな、と思ってたんですけど、物件みたらやりたくなっちゃって。
ーなるほど。だいぶゆるいですね(笑)
そうなんですよ。パリって東京では考えられないような出会いが多いんですよね。今回のこのショップもいい縁があって「そこに条件のいい物件があるから」オープンしたんです。とはいえ、これって自分がパリに住んでるからできることかもしれないですね。例えば、日本の企業がパリにショップをオープンするっていうことになると大変なんですけど、自分はパリに会社を持っているので、契約もそんなに複雑ではなくって。客観的なイメージよりも、だいぶ軽いノリで始められました。
ーパリに住んでいるからこそ、ですね。それにしても、偶然見つけたとは思えないくらい関さんらしい、小ぢんまりと素敵な空間ですね。
この空間自体にピンときたっていうのも、お店を始めた理由のひとつですね。棚とか床とか、もともとあったものを、ほぼそのまま使っているんです。ちょっとした修理は自分でやりました。とりあえずオープンさせて、商品も空間も、ちょっとずつ完成させていけばいいや、それも面白いかなと思っていました。最初はテーブルや椅子もなかったんですよ。オープンしてしばらくして、テーブル欲しいなぁと思いたち、市内外れにあるアポイント制の家具屋に行って、テーブルのついでに椅子も買って。蚤の市でいい感じのランプを見つけたから置いて……、みたいな感じで、気ままに店のディスプレイを作っています。
ーショップの内装で一番こだわったところは?
自分で描いたショップロゴです。これに一番時間がかかったんですよ。ペンキを何度塗りしたかわかりません。手をぷるぷるさせながら影をつけたりもして。長年、ショップ勤務はしていましたが、自分の店って初めてなので、自分のできる範囲でいろいろやってみたいと思ったんです。ほとんどDIYで作ったのも、そういう理由です。床も自分でワックス掛けして、よい感じに仕上げました。
ー商品のラインナップは?
今現在、日本のブランド6割、フランスのものが3割、イタリア1割って感じですね。自分の好きなもの、着たいと思うもの、それから、こちらに来てから縁があって繋がったブランドのものを集めています。具体的には、〈S H〉、〈Anonymous〉、〈WESTOVERALLS〉、〈ARPENTEUR〉、〈Le Yucca’s〉など、あとは国内外の小物や雑貨もあります。それと、ショップ限定のオリジナルプロダクトをいくつか作りました。自分はブランドをみせるということにあんまり興味がなくて、それよりはいいものを単品でディスプレイしたり、コラボレーションでスペシャルなものを作っていくのが面白いなと思っています。
ー音楽はカセットテープで流しているんですね。ラジカセもいい感じです。
ラジカセは中目黒の「ワルツ」で購入したものです。カセットテープも、ワルツで買ったものがほとんどですね。最初はブルーの1台だけだったんですが、今は2台体制です。機械に負担がかかるから、毎日使わず休ませたほうがいいよとアドバイスをいただいて「革靴と同じだなぁ」なんて妙に納得してしまい、重かったですが日本から持ち帰りました(笑)。カセットを裏返す作業も、アナログでとても良いなと思っています。
ー実際にお店をオープンしてみてどうですか?
インスタグラムなどを見て来てくれる人ももちろんいるんですが、ここは住宅街なんで、地元のマダムとかがふらっと立ち寄るんですよ。全然自分のファッション観とは違う人なんですけど、お店でストールとか帽子とか、バックグラウンドを説明したら気に入って買ってくれたりして。それも面白いですね。このあたりは本当にローカルなエリアなので、近隣のお店との関係も楽しいですよ。向かいの薬局のおばちゃんが「お店の照明が暗すぎる!」ってアドバイスをくれたり。それを素直に聞き入れ、その後、照明を買って自分で設置しようと思ったんですが、なかなかうまくいかなかったんです。困っていたら、見かねた隣のレストランの人が手伝ってくれたりして。本当にローカルになじみつつ、自分のアトリエ的な要素もありつつ、力の抜けた感じでゆったりやっています。
ー本当にローカルで、絶妙に力の抜けた感じが、とてもパリらしいです。
日本人がイメージするパリっぽさじゃなくて、こういう雰囲気がパリのリアルなパリっぽさだと思います。例えば、僕も仲良くしている「HOLIDAY」のゴーチエがやっている「Le VIF」という古着屋も「オープンして1年後にようやく看板ができた」なんて言っていて。お店をやりながら作っていくゆるい感じ。パリのリアルってこの感じだよなって。日本にはあんまりないと思うんですけど、パリに住むようになってからより一層力の抜けた感じが好きになりました。自分が飽きないように、いろいろ変えながら、お店を続けていきたいですね。
Text_Mami Okamoto
PARKS Paris
住所:3 Rue Mesnil 75116 Paris FRANCE
時間:11:00~19:00(火~土)
https://parkslabelstore.com/
http://livininparis.com/
https://www.instagram.com/sekijumpei/