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前野健太と歌。そして、池袋という街。

LACOSTE with Kenta Maeno.

前野健太と歌。そして、池袋という街。

鹿の子編みのポロシャツの生みの親である〈ラコステ(LACOSTE)〉の創立者、ルネ・ラコステ。もともとプロテニスプレイヤーだった彼は、練習で使うマシーンや現在のラケットの雛形といわれるスティール製のラケットなどなど、さまざまな用具も開発したことでも知られ、発明家としての才能も持ち合わせていました。そんなルネと同じように、現代にもさまざまなクリエイターが存在します。シンガーソングライターの前野健太さんもそのひとり。“歌をつくる” という作業が一体彼にどんな作用をもたらすのか? 自身が参加する音楽劇『世界は一人』の話を中心に、前野さんと音楽の関係性や、ファッションについても語ってもらいました。

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前野健太 / シンガーソングライター

1979年生まれ、埼玉県入間市出身。2007年に自身が立ち上げたレーベル「ロマンスレコード」よりCDアルバム「ロマンスカー」をリリース。その後も精力的に音楽活動を行い、2018年には6枚目のアルバム「サクラ」を発表。役者としての顔も持ち、2016年に映画『変態だ』(監督:安齋肇、原作:みうらじゅん)で主演を務めたほか、2017年には舞台『なむはむだはむ』にも出演。現在、岩井秀人が演出する音楽劇「世界は一人」の音楽も担当している。maenokenta.com

新しい恋をしたくなった。

ファッションは好きですか?

前野普段はひっそりと暮らしているので、服でアピールしたりすることはあまりないです。行くところといえば喫茶店か古本屋、公園くらいなので。自分が着てて気分いいなと思うものを選ぶ程度です。でも、メガネにはこだわりますね。そこくらいかな。かっこいいものはもちろん大好きですよ。デザイン云々よりも自分に合うかどうかを一番大事にしてます。あと、ライブのときにファッションは重要ですよね。

というのは?

前野服が演奏に関わってくるんですよ。モチベーションっていうのかな。演出の大事な要素だと思ってます。シャツを着ることが多いんですけど、いいものに巡り会えるとテンションが上がりますね。

どんな服だとテンションが上がるんですか?

前野派手な柄シャツです。ほかの人が着ないようなものを探して、見つかるとテンションが上がりますね。「これは誰も着ないだろう」っていうやつ。自分が回収しないとって思います(笑)。

柄シャツを着るのは、ご自身の好きなボブ・ディランの影響もあるんですか?

前野ディランは水玉を着てるんですよ。だからぼくはそれ以外を選びます。

今回撮影で着用されたポロシャツも柄を選ばれていました。

前野候補には無地もあったんです。ぼくは赤が好きなので、赤いポロシャツがいいなと思ってたんですけど、あの柄のアイテムを着てみたらなんかしっくりきて。あまり着たことないシャツに挑戦するのも好きなんです。着てみたい欲求にかられるというか。それで合っていたら新しい自分を知れますし。

ライトブラウンをベースにマルチカラーのボーダーをあしらった一枚。カジュアルな配色ながら、ボーダーのなかにあるブルーやブラックといったダークカラーの存在が印象を引き締め、どこか渋さも漂う。¥14,000+TAX

撮影中、「昔〈ラコステ〉の茶色のポロシャツを着ていた」と話してましたね。それはいつ頃のことですか?

前野たぶん15年くらい前だと思います。当時はサラッとしてて爽やかだったんですよ。それでそのポロシャツもよく似合ってたんです(笑)。

スマートな感じだったと。

前野そうですね。〈ラコステ〉に対するイメージもそう。あと、なんとなく紳士的な感じもします。でも、自分がどんどん濃くなってモジャモジャしてきたので、だんだん着なくなっちゃいましたね。

久しぶりに着てみていかがでしたか?

前野軽やかですよ。ウキウキするというか。新しい恋をしたくなりますね(笑)。スニーカーもすごく軽くてよかった。〈ラコステ〉っていう響きもなんだか軽快ですし。

ニットアッパーを採用し、履き口にはボーダーのリブを配置。ポロシャツのようなディテールワークを踏襲した〈ラコステ〉ならではなアイテム。軽さにフォーカスしてつくられており、インソールにも軽量素材を使用している。¥13,500+TAX

池袋という街の空気を吸うと勘違いせずに済む。

今日は池袋で撮影をしました。この街にどんな印象を持っていますか?

前野複雑なつながりがありますね、池袋には。ぼくにとって最初の都会はここなんですよ。地元が埼玉の入間で、西武池袋線の沿線に実家があるんです。急行で35分くらいなんですけど。

昔、親父が会社をやっていて、事務所があったのも池袋でした。だから親父が呑んだくれてる街っていうイメージもあって。

あとは自分が浪人生のときに週一回はここに来てました。だから青春の街でもあるんです。

池袋、好きですか?

前野この猥雑な感じが好きです。渋谷、新宿、池袋って、昔はそんなに大きな差がなかったように思うんですけど、いまはそれぞれはっきりと色がありますよね。来る機会は減っちゃったけど、このごちゃごちゃした感じは好きです。

「池袋で」という曲もつくってますよね。

前野たしか10年前くらいにつくったのかな。歌詞のなかで夕立が降ってるから、たぶん夏頃で。雑居ビルにダンススクールとかが入っているのを目にして、ふと池袋っぽいなと思ったんです。そのなかに未来の役者とかがいるわけですよ。雨の景色のなかでそこがポツンと浮かび上がってて、すごい東京的ですよね。

あとアジアの香りがするんですよ、池袋って。クーラーがついてすごく冷え切った喫茶店を出ると、ブワッとアジアの亜熱帯感を感じるというか。それが池袋のムードと合ったんですよね。

いま行われている「世界は一人」も池袋の東京芸術劇場で行われています。なにか縁のようなものは感じますか?

なんで芸術劇場が池袋にあるんですかね? 日本橋とか、そういうところにあってもおかしくないはずなのに。でも、この猥雑さのなかにあるのがいいなって思います。

それはどうしてですか?

前野その日の仕事が終わったあとに、この東京のうごめいている街に身を置けるというのが心地いいんです。いいテンションをキープできるというか。ここだと仕事が終わって呑んだくれても許されるような感じがして。ぼくらの役割って、単純にお客さんを楽しませることなんですよ。すごいと思ってくれる人がいるかもしれないし、それはもちろんありがたいんですが、実際はそんなに崇高なものじゃない。芸術劇場でやらせてもらうのはすごく光栄だし、こんな大きな場所だからこそ普段ならつけあがってしまうんですけど、外に出て池袋という街の空気を吸うと勘違いせずに済むんです。

新しい環境にいると細胞が生まれ変わる。

「世界は一人」では劇中で歌われる楽曲の制作や、生演奏をされているんですよね。

前野そうです。作品の作者であり演出家の岩井さんが書いた詞に曲をつけて歌にするっていう立場です。音楽監督のようなものかな。どうして岩井さんが音楽劇をやりたかったのか。きっと想いや気持ちをもっと広く届けられると思ったからなんだと思います。もともと音楽が好きな方なんですが、セリフが歌になって飛んでいったら、人の心のもっともっと深い場所に届くんじゃないかって。

メロディが明るかったり暗かったりするだけで、その言葉の持つ意味をより理解することができそうです。

前野そうなんですよ。今回つくったなかで「世界は一人」っていう曲があるんですけど、“世界は一人” っていうフレーズ自体にメッセージが込められていて、ただ言葉だけだとちょっと硬い。それが歌になった瞬間に、ビビッと世界観を理解できるというか。

今回の音楽劇ではすべての楽曲の作詞を岩井さんが担当されているそうですね。自分以外の人が作詞したものに対して曲をつくる経験はこれまでにもあったんですか?

前野昨年、YUKIさんが書いた詞で曲をつくったことがあります。ぼくは一語一句そのままにするよりも、変えたくなるんですよね。

言葉ですか?

前野そうです。自分のリズムとかメロディがあって、それに当てはめていくんです。だからだんだん自分の詞に近づいてくる感覚があって。ただ、YUKIさんにしても岩井さんにしても、詩情が豊かだからこそできるんです。2人とも詩情が合う感覚があって、まったく苦労がなかったです。今回の公演に来てくれた人は岩井さんが書いたのか、ぼくが書いたのか区別がつかないと思います。

〈ラコステ〉のオリジナルネームを柄としてあしらった一着。黒地の上に浮かび上がるブルーの文字がどこかモダンな印象を与える。ウルトラスリムフィットで、シャープな印象がより強調される仕上がりになっている。¥14,000+TAX

自分と同期させるような。

前野ぼくは人が持っている歌心みたいなものを書くのが好きで。一番新しい「サクラ」というアルバムに「人生って」という曲があって、それは古いジャズ喫茶が舞台なんです。とある喫茶店でコーヒーを飲んでいるときに、ママに「人生ってなんだと思う?」と聞かれて、「遊びですかね?」って答えたんですけど、「私はあがきだと思うの。70年を生きてきて、最近そういうことを思うの」って言われて。その瞬間に心にズーンと来るものがあって、そのやりとりから歌詞をつくって曲にしたんです。

ママの言葉があったからこそなんですね。

前野ぼくはまとめただけですね。ママの歌心に共鳴したというか。人の言葉ってそんなに遠くないんです。だから自分の歌のようにできちゃうんです。

今回の演劇では前野さんと岩井さんによる曲を、松たか子さん、瑛太さん、松尾スズキさんといった豪華な俳優陣が歌っています。

前野それは未体験だったので、想像以上に大変でした。人それぞれ持っているキーが違うし、それが変わるだけで歌そのものが変化してしまう。調整するのにすごく時間がかかりました。でも、単純に楽しかったですね。

演者さんたちとどうやって曲を完成していったんですか?

前野ぼくがまず1番を歌うんです。こんな感じですよって。それで2番を演者さんに歌ってもらう。最初は「え?」ってなるんですよ。そりゃあそうですよね、聞いたことない曲なんだから(笑)。でもね、適当に歌ってもらっていると、その人固有のメロディが浮かび上がってくるんです。その瞬間にグワっと気持ちを持っていかれますよ。言葉にできない感情が生まれる。

セッションみたいな感じでつくっていくんですね。

前野岩井さんがそういうつくり方をしたかったそうなんです。楽譜を渡して覚えてもらうんじゃなくて、その人が持っているものを引き出す方法。岩井さんいわく「歌を馴染ませたかった」そうなんです。

前野さん自身、その作業を通して得るものはありましたか?

前野もちろん、大きかったです。おもしろい方たちと一緒にいると細胞が変わっていくんですよ。たとえば映画に呼んでもらうと、映画の細胞になる。今回もリハーサルを含め、長い期間、共演者の方々と一緒にいて、「世界は一人」の細胞になっているんです。その間にしかつくれないものを形にしたいなって思います。

やはり、それによって生まれてくるものにも変化はあるんですか?

前野それはありますよ。最近はありふれた街の看板が歌っぽく見えてくることがあるんです。そこに書かれた文字や言葉がね。岩井さんと一緒にいると、そうした些細なものから曲をつくってもいいじゃんって思えてくるんです。「マエケンにはそういう特殊な能力があるんだよ」って言われて、自分ではそんなこと全然思ってないのにその気にさせられちゃうというか。すごい演出家ですよね。

そうした環境への柔軟性が前野さんをどんどん生まれ変わらせているのかもしれませんね。

前野あまり深いことは考えずに、おもしろそうだなと思うところにポンと飛び込んでいける柔軟な感覚はずっと持ち続けたいと思っています。そうすれば絶対に新しい細胞が生まれるし、死ぬまで飽きないと思うんですよ。昔は「紅白が目標だ!」なんて言ってたんですけどね。

もうその気持ちはないんですか?

前野もちろんありますよ。でも肩肘張っていると遠のくんです。もしかしたら審査員側ならありえるかもですね(笑)。あとはぼくが書いた曲で誰かが出るとかね。それも素敵なことじゃないですか。自分が興味ある人から楽曲を提供して欲しいって言われたときに、断るようなことはしたくない。「自分のことがあるんですみません!」とは言いたくないんです。だから可能な限り柔軟な姿勢でいて、いろんなところに飛び込んで行けるようにしておきたいんです。

ラコステお客様センター

電話:0120-37-0202
www.lacoste.jp

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