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スタイリストとの対話で紐解く香川で生まれたブランド、パース プロジェクト。
What is PERS PROJECTS?

スタイリストとの対話で紐解く香川で生まれたブランド、パース プロジェクト。

“神は細部に宿る”という言葉が大袈裟でも何でもなく、素直に受け取れるブランドが香川県にあります。その名も〈パース プロジェクト〉。生産のほぼ全てを県内を中心としたエリアで完結させるそのアイテムは、シンプルなデザインの中にディテールへの細やかな気配りが内包されています。今回はデザイナー 伊藤裕之さんとスタイリストの八木智也さんとの対話を通して、ローカルでモノづくりをすることの意味と意義を見つめます。

インスピレーションの源泉。

スカジャンをはじめ、リネンシャツやデニムのセットアップ、フェードしたダメージスエットなどが展開される〈パース プロジェクト〉の24SS。それらのアイテムはどういったきっかけで生まれるのでしょうか。インスピレーションが生まれる瞬間について二人に聞いてみます。

伊藤: 僕は海外に行くとインスピレーションを受けたりしますね。このトップスにそのパンツを合わせるんだ、みたいな意外なコーディネートを見れることも多くて。シーズン前にはそういう頭の中にストックしてたイメージがベースになったりします。

八木: 今シーズンのテーマとかってあったりするんですか?

伊藤: これと言ったテーマを設けてはないんですが、今回で言えば、いま着てるスカジャンが軸になってます。これまでスカジャンって着てこなかったんですけど、スカジャン×デニムみたいな懐かしの王道スタイルを、どう組み合わせたら今っぽくモダンに着られるだろうってところから派生して、じゃあデニムはこうしようみたいなアイデアが生まれていきますね。そうするとぼんやり80’sっぽいなと思ったので、全体的な統一感ができるようにつくるアイテムを考えていきます。

八木: 海外へは頻繁に行かれるんですか?

伊藤: コロナになってから行けてないですけど、それまではよく行ってましたね。セレクトショップで働いてた頃にもアメリカやヨーロッパへ買い付けに行ったり。あとタイなんかにも古着を買いに行ったりしてましたね。

海外で見る何気ない日常のひとコマや予想の斜め上をいくスタイルからヒントを得るという伊藤さん。それに大きく頷く八木さんもフットボールシャツをいち早くスタイリングの中に取り入れていました。

八木: フットボールシャツって普通の服と違った配色だったりするじゃないですか。それをいつものスタイルに組み込んだら、いい違和感が生まれるんじゃないかなって思ったんですよね。欧米に行ったりすると、応援しているチームのフットボールシャツだったりとかを普段着として着てたりする人もいたりして、そういうリアルな感じが面白いし、好きなんですよね。着てる本人からしたらおしゃれだと思ってそうしてないんでしょうけど、日本人から見たらそれがおしゃれなように感じたり、そういう時にビビってくるかもしれないですね。

伊藤: 海外のそういう型破りなスタイルは面白いですよね。その感覚はNY時代に培われたんですか?

八木: 無意識の内に見てたのかもしれないですね。逆に香川県にいるとどういう人から刺激を受けたりするんですか? あ、この人おしゃれだなってどういう瞬間に思うのかなって。

「スカジャンがしっかりと主張してくれるので、その他は引き算でボーダーTと生成りのデニムをチョイスして、足元にシックなモカシンを合わせています。ボーダーTはピッチが細くて、くっきりとしてないので、アウターにもよく馴染んでくれます」

伊藤: ずっと服装が変わらない人っていらっしゃるじゃないですか。僕の先輩にも年中レザージャケットを着てるような方がいて。そういう人は憧れるというか、かっこいいなと思いますね。

八木: 自分のスタイルを持ってる人ってかっこいいですよね。

伊藤: そういう人ってかっこいいなと思いますし、自分だったらどう着るだろうって考えてるかもしれないですね。それが服づくりの種になるというか。これをモダンにしたら面白いんじゃないかみたいなところが起点だったりしますね。いま着るんだったら、テロッとした光沢感を抑えた方がいいかな、じゃあどういう生地がいいかなという感じで。

“ミジンコボーダー”とも呼ばれる細ピッチの一着。天竺生地を使いながら、通常であれば内側にくる面をあえて外側にしているため、ぼんやりとした独特な表情に仕上がり、さらに滑らかな着心地に。一方のデニムは、ワンタックを加えて腰回りにゆとりを持たせて、裾にかけては流れるような綺麗なストレートシルエットに仕上がっている。

八木: 香川県でつくるからこそできるデザインのアプローチみたいなものがあるのかもしれないですね。スカジャンって虎とか龍とかの刺繍の印象は強いけど、伊藤さんのつくるアイテムは引き算というか。東京と見てるものが違うと思うので、いい意味でその違いがこういった表現に表れているのかなと思いました。

伊藤: 東京に来るとなんとなくのトレンドみたいなものがわかるんですけど、やっぱり香川県はそこまで意識する人もいなくて。もちろんいまの流れは意識しますけど、トレンドに振り回されるってことはないかもしれないですね。

八木: トレンドに振り回されるか、確かにそうですね。いい距離感で見られてるんですね。

普通そうに見えて、普通ではない〈パース プロジェクト〉のアイテムに触れて、八木さんの興味のベクトルは香川県という土地柄に向きます。

八木: 服づくりのこだわりというか、ルールはありますか?

伊藤: 自分で着ないものはつくらないってところですかね。あくまで僕が着たい、欲しいと思うものをつくり続けたいんです。

八木: 自分で着るからこそ細かい部分までこだわりたくなるのかもしれないですね。

伊藤: そうですね、着ていくうちにああしたい、こうしたいとか来年はもっとこうした方がいいとかって思いますね。

八木: 例えば、今シーズンのリネンシャツが薄くて軽いのは、香川県の気候も影響したりするんですかね。夏って暑いんですか?

伊藤: 香川県の夏は暑いって言われますね。

八木: 暑いと半袖より、長袖の方が逆に涼しいって言ったりするじゃないですか。

伊藤: そこまで意識はしてないですが、ビルとかの日陰が少ない分、日差しが暑いみたいに言う方もいらっしゃいますね。

八木: あー、そういうのもあるのか。あと車社会だから、冷房に当たることも多いみたいなところも影響してるんですかね。真夏でもこういう薄手のシャツが一枚あると便利ですし。こういう香川県の特性みたいなことを知っていくとより深みが増す服ですね。

環境や気候を紐解くことで、はっきりとした輪郭が表れてきたブランド像。もし〈パース プロジェクト〉で別注をつくるなら、八木さんはどんなアイテムをオーダーするのでしょうか。

八木: なんだろう。プルオーバーシャツとかつくって欲しいですね。僕自身あんまりシャツを着ないんですけど、私服でプルオーバーシャツを持っていて、それは身幅がゆったりしていて、タックインして着るといい感じなんですよ。そういう身幅の広いプルオーバーシャツをこのリネンでつくってもらったら、クタり感と相まってめちゃくちゃいいシャツができるんじゃないかなって思いますね。

伊藤: プルオーバーシャツいいかもしれないですね。

八木: つくってみたものの納得いかなかったアイテムとかもありますか?

伊藤: もちろんありますよ。生地からこだわったけど、泣く泣くドロップしたりすることもありますね。

八木: 職人ですね。今シーズン1番つくるのに苦労したアイテムはどれなんですか?

伊藤: ケミカルウォッシュのデニムですね。サンプルをつくる前に写真を見せたり、資料を見て伝えたりするんですけど、実際にモノが出来上がってみないとわからない部分も多いんですよね。ゆったりしたシルエットにしたくて、オンスは少し軽めであまり目の詰まってない柔らかい生地にしてるんですよ。でもそういう生地は、児島だと逆に難しかったみたいで。

八木: へえー、リジットみたいな生地が多いからってことですか?

伊藤: そうですね、ガンガンに目を詰めたデニムが良しとされている場所なので、柔らかさを出すところは苦労しました。あと、このケミカルっぽい色落ち具合も難しかったですね。

八木: この雰囲気、絶妙ですよね。野暮ったさはないけど、どこか懐かしい感じがします。最初はどんな感じで上がってきたんですか?

ストーンウォッシュ加工によってまだらな色落ちが再現された一本。ケミカル感もありつつ、都会的なムードをはらんでいる。生成りのデニム同様、こちらもワンタックを加えたストレートシルエット。トップスに選んだスエットは、あえて着丈を長くし、リブのテンションをゆるくすることで着込んで裾のゴムが伸び切ったようなヴィンテージスエットのフォルムを再現。両サイドにはポケットが備えられているため、使い勝手も抜群。

伊藤: ザ 80’sみたいな感じでしたね。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』っぽいというか。

八木: ああ〜、なるほど(笑)。

伊藤: 80’sのケミカルジーンズを再現したい訳じゃなくて、あくまでもそのニュアンスが欲しかっただけなので、その微妙なさじ加減を伝えるのに苦労しました。でもやっぱり直接話せるから、思い描いていた色落ち感が表現できたんだと思います。ニュアンスを伝える作業はスタイリストさんにもありますよね?

「デニムが表情豊かなので、トップスはシンプルに。生地が柔らかなので動きやすいですし、裾に溜まった時のクッションが綺麗に出てますね」

八木: ありますね、ほんと難しいですよね。先ほどおっしゃってたような『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか、そういう固有名詞を使ってお互いのイメージを近づけていくしかないですよね。

伊藤: 商品の特徴を捉えて表現するみたいなこともするんですか?

八木: 時と場合によって結構変わってくるんですけど、タレントさんに着せるってなるとあまり気にしなくて、販売用のビジュアルであれば、ディテールだったりが重要になってきますね。デニムも表参道で撮影するのと、民家の前で撮影するのとだと、だいぶ印象が変わりますし、僕はイメージをつくる作業が好きですね。ブランドの方向性を踏まえてビジュアルを撮る、みたいな。

2時間に及ぶ対談も大詰め。最後に伊藤さんから八木さんへ「〈パース プロジェクト〉でファッションシュートをするなら、どういうシチュエーションで?」という質問が投げかけられます。

八木: そりゃ、やっぱり香川県に行きたいですよね(笑)。ルーツも伝わりますし、おっしゃってたようないつもレザージャケットを着ている先輩に着てもらってもかっこいいと思います。

伊藤: 香川県でやるとどうなるのか見てみたいですね。

八木: 絶対うどんは出したいですね(笑)。モデルがうどんを食べるカットがあったら、多分すぐに香川県だってわかると思いますし。うどん屋の店主とかリアルな人が着て撮影するのも面白そうですね。誰が着てもサマになる服だから、魅力が引き立つと思います。

INFORMATION

PERS PROJECTS

オフィシャルサイト
Instagram:@pers_projects

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