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ルックスタジオ、創造の現場。
STILL LQQKING FOR

ルックスタジオ、創造の現場。

気づけばみんなが知っていて、だけど多くは語り得ない。ストリートで、カルチャーシーンでこれだけのプロップスを築いた後も、その全貌はなかなか見えない〈ルックスタジオ(LQQK STUDIO)〉という存在。創設者として舵取りを続けるアレックス・ドンデロが本拠地のブルックリンから東京へやってきたタイミングで訊いた、彼と仲間たちについてのナマの話。未来を見据えるアレックスの言葉から、そこに渦巻くエネルギーとクリエイティビティの正体が見えてくるかも。

  • Photo_Ryohei Obama
  • Text_Rui Konno
  • Edit_Seiya Kato

重要なのはアイデアがあれば続けること。

− 発想の部分がしっかり紐づいたものづくりの現場だっていう意思表示なワケだね。でも、規模が大きくなってブランドとしても成長して忙しくなってくると、外部からお願いされるプリントワークを続けるのは大変なんじゃない?

その仕事をセーブするとブランドの方に注げるエネルギーと費やせる時間は増えるよね。でも、またある時にはプリントショップとしての繁忙期になって、ブランドの仕事が少し落ち着くこともある。そうやって波に任せて、何がいつ落ち着くのかを見極めながら他の仕事をピックアップしてる。プリントショップとしては想像を超えるような、かなりクールなプロジェクトをやってるたくさんの人たちと仕事ができてラッキーだと思ってる。もし僕らに波がないときでも、人と協力しておもしろいクリエイティブなプロジェクトを行うっていうやり方が見つけられたから。クリエイティブであり続けるためには、そうやって機会を活かすのが重要なんだ。もし自分たちがビジネスとして低迷しても、すべてにイエスと言わなきゃならないほど必死にならなくていいようにしたい。自分のビジョンに忠実で、やりたいことのレベルに忠実でいなきゃね。

− それは自分らしくいたいすべての人たちに共通する視点だね。これまでで特に驚いた外部からの依頼で、話せるものがあったら教えてくれないかな?

最近だとデヴォン(Devon Turnbull)との仕事かな。〈オージャス(Ojas)〉っていう〈シュプリーム(Supreme®︎)〉のストアとかに置かれているスピーカーのブランドなんだけど、その大型のスピーカーにプリントをしたんだ。これは本当に素晴らしいプロジェクトで、僕自身、音楽と音響機器が大好きだから、自分の興味とも関わりが深くてさ。デヴォンが僕のところに来て、「こういうのできる?」って。彼との共同作業は最高だし、すごくワクワクする。普段やってるTシャツとはまた違うものだし、スピーカーはプリントできるチャンスが1度だけ。すごくエキサイティングだよ。

− それは量産品じゃなく、ワンオフのスピーカーへのプリントだったの?

うん。だいたいが特定の場所に置かれる特注品だね。今回はある美術館に置くためのものだった。ばかデカいシルクスクリーンをつくって、ふたりがかりでスキージーを引っ張るんだ。しかも自分のスタジオじゃなくて、スピーカーが組まれた現場でそれをやらなきゃいけないからプレッシャーもすごかったけど、自分の人生ではずっとやってきたことだし、ここぞって時の覚悟もあるし、何より好きなことだからさ。でも、チャンスは一度きり。失敗しても塗り直しをするワケにもいかない。過去にあったんだよね。そういう時に、やらかして塗り直したことが(笑)。

− それも必要な経験だったのかもね(笑)。外部の人たちからのインプットはすごく良くわかったけど、自分たちのデザインでもサンプリングによるものがたくさんあるよね。ほとんど元ネタが見つからないんだけど(笑)、多分ソースがあるんだろうなって感じるよ。

そうだね(笑)。僕らがデザインしたものの多くはDJのライフスタイルだとかレコード、要は音楽をリファレンスにしたものだよ。それは僕にとって大きな柱のひとつで、僕は昔からレコードをたくさん買ってきたから。だからレコードにたくさん触れてきた人じゃないと、〈ルックスタジオ〉のビジュアルの多くは詳細がわからないと思う。いまはすべてがデジタル化されてるから、みんな自分が聴いてる音楽でもそのオリジナルのデザインはまったく知らないのかもね。だからこそ、レコードは実際の音楽と物理的な製品を結びつける方法のひとつだと思ってる。

− なるほどね。それを聞くと、答え合わせをするのもより楽しみになるね。

あとは、他の人たちと一緒につくるデザインも多いよ。例えばこのフルーツTもそう。元々は3つ並ぶロゴシリーズをつくりたいと思ったことが始まりで、過去にはアニマルパターンとか、ストリートらしいテーマで3つセットをやったこともあってさ。で、次はと考えたときに、フルーツは本当にクールで美しい柄があるからいいプリントになるんじゃないかと思って。それで、エアブラシでデザインをしてて、〈シュプリーム〉なんかにもデザインを提供しているサラのことを知ったんだ。「フルーツのロゴがやりたいんだけど、お願いできない?」ってコンセプトだけ話して果物の断面図を彼女に渡したら、彼女はそれを見事にクラッシュしてくれたんだ。これがメールの原文。で、これがそのロゴのセット。

− 力を貸してくれる仲間って意味では、日本だと「ミンナノ(MIN-NANO)」の吾郎さん(中津川吾郎)とも長い付き合いだよね?

そうだね。日本での成長とか、日本拠点のクリエイティブなプロセスをもっと増やそうと思ったときに、マーケットをよく理解してる人が必要だったんだ。それがゴローだったんだよ。もう長いこと、「ミンナノ」には〈ルックスタジオ〉を扱ってもらってる。僕らとゴローは好きなものが似ていて、同じような興味を持って一緒に多くのことを学んできた。僕がアイデアを思いついたら彼に話すんだけど、だいたいゴローも同じような考えを持ってた。理解し合えてると思ってるよ。彼はブランドっていうものが何なのかを知ってる。僕にとって重要なのは、そういう人が力を貸してくれることなんだ。いまはミヨシ(三好良)が技術面の管理とかで僕らの力になってくれるようになって、僕らのビジョンはもっと高いところに行けそうだよ。

− 〈ルックスタジオ〉にとって日本でのアクションはすごく重要なんだね。

僕らはパーティを開いたり、DJを呼んだりするのが大好きだし、それはすごく重要なこと。ただTシャツを買ってもらうだけじゃなく、そういう体験の機会を広げたい。その両方を日本で成長させていきたいんだ。僕らのカルチャーを育てていくために、これからも続けていくつもりだよ。

− 〈ルックスタジオ〉の設立以降、ブランクボディにプリントをして発信しようという人は世界中ですごく増えたと思うけど、今ではもう活動をしていないところも多いよね。そういうムーブメントについてはどう感じてる?

残念だよね。若い人とか創作意欲がある人にとって、それをアウトプットできる場があったり、自分たちの手でやる機会があることって重要だから。さっきも言ったけど、僕はやりたくないことは拒否してきたし、それを気にしていない。他の人たちも僕たちみたいなマインドセットを持つことには意味があるんじゃないかな。仮に他に仕事を掛け持ちしてでも、創作や制作をし続ける方法を見つけよう、っていうように。単につくるだけじゃなくて、もしいいアイデアがあるなら、それぞれがそれを続けていかないと。友人たちのブランドが立ち上げられては消えていくのは悲しいよ。「取り組んではきたけど、利益が出せないからもう止めよう」ってこともあると思うけど、立ち止まって休んでもいいんだよ。いずれまたつくる方法が見つかるから。でも、多くの人にとっては経済的に辛くて、そういう状況でものづくりを続けるのはすごく難しいよね。

− 多分、始めるときは不安はあっても明るい未来をみんな描くだろうから、次第に現実とのギャップに打ちのめされるんだろうね。

重要なのはアイデアがあれば続けること。僕の友達にもほとんどお金にならないプロジェクトを続けている人は大勢いるけど、それって本当に刺激的なんだ。〈ルックスタジオ〉を大手ブランドだと思ってる人はよくいるし、まるでお金が湧いてるように見えてるのかも知れないけど、実際のところは重労働。それに、他にやってることで、利益なんてほとんど出ないものもあるよ。でも前向きに、失敗から学ばないとね。小さなブランドの多くは簡単に敗北に挫折していると思うけど、何事もそこが最終地点じゃないし、やる気があるならまた5年後にでもプロジェクトを始めればいい。その後にインスピレーションを得て、新たにデザインを考えたりできるなら、それでいいんだよ。やっぱり、みんなにも情熱を形にし続けてほしい。だから、たくさんの人のプロジェクトが終わったりするのは辛いんだよ。

− そうだよね。誰かが失敗する姿を嘲る人もいるだろうけど、当人と同じように心を痛める人だって絶対にいるからね。

そうだね。でも〈ルックスタジオ〉をずっと続けてきて成長するほど、より多くの人たちが意見をくれたり、考えを教えてくれるようになったと思う。だけど、それで気づいたよ。他の人たちの意見は大切だけど、最後は自分の心の声に従うべきだって。自分が尊敬する人たちの意見を吸収するのはいいことだけど、最終的な決断をするのは自分自身じゃなきゃいけない。最高のものは、最高の結果はそこから生まれるはずだから。

− 日本の僕らが〈ルックスタジオ〉を知ってから、アレックスたちはずっと好調なように見えていたけど、苦しい時期も乗り越えてきたんだってよくわかったよ。

そりゃあね。何事も簡単じゃないし、それが重要だと思うしね。でも、僕は頑固だから諦めないんだ。状況が良くても悪くても関係ない。とにかくやり続ける。世で言うような“仕事”はしたくないしね。これは僕の長い挑戦で、やりたいこと。だから、浮き沈みがあっても僕は〈ルックスタジオ〉を続けるよ。

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