FEATURE
前代未聞のカメラバッグ。モノリスのシューティングトートは、いかにして生まれたか。
Directed by Katsuhide Morimoto & Keiji Kaneko

前代未聞のカメラバッグ。
モノリスのシューティングトートは、いかにして生まれたか。

カメラバッグと聞いて、どんな形を思い浮かべますか? 〈ドンケ(DOMKE)〉のようなショルダーバッグ? 〈ペリカン( PELICAN )〉のようなキャリーバッグ? まぁだいたいこのあたりが定番でしょう。そんななか、まったく新しいタイプのカメラバッグが完成しました。手がけたのはフォトグラファーの守本勝英さん、ファッションバイヤーの金子恵治さんという珍しいタッグ。さらに生産を担当したのはフイナムではお馴染みの〈モノリス(MONOLITH)〉です。我々は企画会議の段階からものづくりの動向をつぶさに追いかけてきました。出発点にあったのは「カメラバッグには正解がない」という嘆きに近いひと言。そこから思いも寄らないバッグが誕生しました。足掛け約3年のビッグプロジェクト、その全容をここにお届けします。

  • Photo_Masayuki Nakaya(STEP1),Keiji Kaneko(STEP3),Tadayuki Uemura(STEP4)
  • Text_Tsuji
  • Edit_Ryo Komuta

PROFILE

守本勝英

1974年神奈川県生まれ。日本大学経済学部在学中の1997年より、写真家・富永よしえに師事。1999年に独立。ファッション誌を中心に、広告やアーティストの撮影などを手がける。

PROFILE

金子恵治

ファッションバイヤー。セレクトショップ「エディフィス」にてバイヤーを務めたあとに独立。自身の活動を経て、2015年に「レショップ」を立ち上げる。現在は同ショップのコンセプターを務めるとともに、さまざまなブランドやレーベルの監修も行う。

PROFILE

中室太輔

PR・ブランディングオフィス「muroffice/ムロフィス」代表。様々なブランドのPRを担当しながら、近年は〈モノリス〉〈アイヴォル〉などのコンセプトメイキングやブランディングなども手がける。

STEP01:KICK OFF  フォトグラファーとバイヤーの共通点。

2021年某日、フォトグラファーの守本勝英さん、ファッションバイヤーの金子恵治さん、〈モノリス〉のディレクターである中室太輔さんが、「カメラバッグをつくる」という名目のもとに集まりました。具体的なコンセプトを決めるというよりは、まずは顔合わせをということで、カメラや写真に対するそれぞれの想いを語ります。

中室: 最近、守本さんと金子さんがお仕事でご一緒されたんですよね。ぼくとしては、守本さんには〈モノリス〉のヴィジュアル撮影をお願いしているし、金子さんとぼくはセレクトショップで働いている頃の上司と部下という関係なんです。そこでいろんな点が繋がって、この座組みでカメラバッグをつくるということになりました。そもそもの発端は、守本さんが現場で「カメラバッグが欲しい」というお話をされていたのがきっかけなんです。

守本: カメラバッグって正解がないんです。いろんなブランドからいろんなアイテムが出ているんだけど、使用用途によって選び方が変わってくるので、どれも正解じゃないみたいなところがあって。カメラマン同士でも「それいいけど、結構でかいよね」というような話をよくしています。あとはカメラバッグって、ちょっと言いにくいんですけどデザイン的にいいなっていうものが少なくて。そこらへんも決め手に欠ける要因なんです。

中室: カメラバッグってバッグのブランドからすると結構難しいテーマなんですよね。そもそもプロユースなのかライトユーザー向けなのかで、仕様が全く違うじゃないですか。あとカメラって人によって使い方が全然違うんで、どこにフォーカスするのかが大事というか。

金子: 今回つくるのは、歩きながら撮影をするひとに向けて、その道中で使いやすいカメラバッグがいいかなと思ってます。ウェブの記事で読んだんですけど、守本さんもプライベートではライカを使われているそうですね。もともと写真学校とかで勉強をされていたんですか?

守本: いやいや、写真学校は出てないんです。大学に通ってて、バイト感覚で友達に連れられて先生のところへ行ったら、いつの間にかアシスタントになってたという感じで。写真教室みたいなのには行ってたんですけど。

中室: 撮影の現場でアシスタントさんの動きを見ていると、本当に大変そうですよね。

守本: 当時、うちの先生もフリーになりたてで猫の手も借りたいくらい忙しかったんです。それでアシスタントの先輩に教えてもらいながら勉強していきました。そのときはもうやるしかなくて、アシスタントがぼくしかいない現場が続くと、もう覚えざるを得ないというか(笑)。

金子: じゃあ、いきなり仕事からスタートみたいな。

守本: そうなんです。写真は好きだったけど、作品を撮っているわけではなく。それで2年間アシスタントをして、その後に独立をして。

中室: そんなストーリーがあったんですね。独立してから守本さんはずっとファッションの第一線で活躍をされていて、最近になって金子さんと繋がったというのを聞いて、ぼくはすごくうれしかったんです。

守本: ムロと金子さんはセレクトショップで一緒だったんだよね。

中室: そうですね。当時から金子さんはバリバリのバイヤーで、「なにこれ?」っていうものばっかり仕入れてくるんですよ。だけど、今振り返るとすごいブランドを仕入れていたんだなっていうのがわかる。今ファッションを騒がせているブランドは、金子さんが最初に発掘していたんだなって。

守本: 「これがいい」っていうことに対しては、ストーリーがないとダメじゃないですか。ただかっこいいという理由じゃなくて、その街のカルチャーや香りみたいなものを持って帰ってくるということですよね。

金子: そうですね。旅雑誌を見ながら気になる場所を訪れるようにしていて。例えば、テキサスのマーファって街として魅力的だから、「絶対なにかある」っていうのがわかるんですよ。

中室: そういう意味ではフォトグラファーがやっていることも近いんじゃないですか?

守本: そう思います。カルチャーやファッションの写真を撮るときに、今まであるものを焼き増しするように撮ってもしょうがない。ルーツを探るっていうとおじさん臭くてイヤなんですけど、どうしてそれが存在するのかっていう理由を探っていく途中に、新しいものが見えてきたりするんです。それが楽しいですね。

中室: バイヤーもフォトグラファーも常にアンテナを張る仕事だと思うんです。どこになにがあるかを見逃さないというか。とあるフォトグラファーさんと撮影でヨセミテに行ったことがあるんですが、撮影現場まで歩いて1キロの道のりのあいだにも、つねにシャッターチャンスを探しているんですよね。

守本: そうそう、現場に入る前からもう始まってるんです。

金子: たしかにそういうところは似ているかもしれない。ぼくも海外へバイイングへ行くときに、いかに寄り道ができるかを大事にしていて。アポイントを取っているブランドや工場には、もうネタがあるのは分かっているから、いかにそれ以外の場所で探すかが重要だと思うんです。目的地は保険みたいなものなんですよね。

中室: 今回カメラバッグが完成したら、どこか旅へ行くときに使って欲しいですね。

守本: 旅で使えるものもいいかもしれないですね。ぼくの個人的な意見としては、緩い部分というか余白が欲しいですね。例えば細かなポケットがたくさんあるとか、全部ファスナーを開けなきゃいけないとか、そうなると面倒臭い。サッと取り出せるような箇所もあっていいと思うんですよ。

中室: たしかにそうですよね。それがユーティティ性にも繋がりそうです。

守本: これは仕事としての理想なんですけど、ぼくのなかではバッグにカメラが2台入って、あとはパソコンと充電器。レンズはいっぱい入れると重いんで、メインのレンズと、他1~2本くらい入ればいいですね。それ以上欲張ると今度は旅で使いづらくなるので。

金子: たしかにそれくらいのスペックだと、旅でも使いやすそうですね。今日ちょっとだけ私物を持ってきたんです、〈ミステリーランチ(MYSTERY RANCH)〉のものとか。

守本: 〈ミステリーランチ〉のカメラバッグは僕も使ってます。シンプルな感じでいいんですよね。ポケットが多すぎなくて。

金子: わかります。そしてこれは〈バッグジャック(BAGJACK)〉の定番の「スプートニク」というもので、ウエストにも付けられるし、斜めがけもできるんです。裏にターポリンも貼っていて、防水仕様になっているという。

金子: 小さいメッセンジャーバッグをカメラバッグ仕様にしているやつで、ライカを入れるくらいはちょうどいいんですけど、ちょっと重いというかオーバースペックだったりもして。

守本: さっき余白って言ったんですけど、言い方を変えるとカメラバッグには遊びがあった方がいいと思ってて。正直、カメラバッグって大きめの内ポケットのあるトートバックでいいじゃない、とも思うんです。そういう考え方の延長線上で作ることがいいのかなと。

中室: そしたら次回、守本さんにも私物を持ってきてもらって、それを見ながら方向性を決めていくのも良さそうですね。

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