アイウェアはレンズがすべて。
ー今回、フレームの色は「スモーク」と「ビール」を選ばれましたが、どうしてこの色を選んだんですか?
金子: ぼくが持っていた日本製のアイテムは、クリアフレームだったんです。“例のモデル”といえばやっぱりクリアという印象があって、そこは今回も踏襲したかったんですが、同時に大人っぽいアイテムにもしたかった。打ち合わせの段階でセルロイドのカラーサンプルをいろいろ見させてもらう中で、その条件に合うのが「スモーク」と「ビール」だったんです。
今泉: めちゃくちゃいい色ですよね。
金子: テーマ通りの色ですよね。日常使いができる大人のスポーツメガネみたいな。ミラーレンズも特徴で、中でも薄いミラーになっているのがいい。テーブルに置いてあると透けるんだけど、掛けるとミラーになるっていう。
今泉: その不思議な感じが魅力ですよね。
金子: テーブルに置いてるときにギラギラしなくて、いやらしさがないのがいいですね(笑)。あれってちょっと気になるじゃないですか。
ーこれは特殊な加工をしているからなんですか?
今泉: ミラーレンズはグレーレンズにシルバーミラーと、グリーンレンズにゴールドミラーの2種類つくったのですが、どちらもレンズの裏面にARコートといって、反射防止のコーティングをしているんです。だから掛けたときに裏から光が反射しないようになっていて。あとはベースとなるレンズの色もそこまで濃くしなかったので、ミラー効果が抑えられているというのも理由のひとつです。
金子: もう1色のレンズもいい色ですね。
今泉: こちらはグリーンのレンズと、ぼくらがオリジナルでつくっている「DEEP SEA」というレンズを使用していますね。グレー調なんですけど、赤みを極限まで抑えているんです。
金子: ちょっと青みがかって見えますよね。
今泉: そうですね。赤いとカジュアルに見えてしまうので、そうならないように。あとこちらはミラーレンズとは逆の発想で、ベースカラー濃度を上げています。そうすることで、掛けたときに顔が透けにくい。ミラーレンズと掛け比べたときの差をあえてなくすようなレンズにしました。
金子: すごいですね。アイウェアってめちゃくちゃ奥深い。
今泉: これは極論かもしれないですが、アイウェアってレンズがすべてだと思っていて。ぼくらはレンズを通して世界を見ているわけなので、フレームはあくまでレンズを支えるものでしかないんですよ。
ーそれはどういうことですか?
今泉: やっぱり、道具としての本質はレンズにあるじゃないですか。レンズを通して視力を補強したり、光から目を守っているわけなので。ぼくが〈アヤメ〉のアイテムをデザインするときも、レンズありきでフレームを考えているんです。目って光学的に動くので、レンズの形がすごく大事なんですよ。たとえばティアドロップ型のサングラスも、目の動きに合わせてフレームの形がデザインされているんです。
金子: へぇ~。そうだったんですね。
ーそういう意味で“例のモデル”はもともとスポーツ用につくられていて、他のアイウェアと比べて視認性が高かったりするんですか?
今泉: そうですね。レンズ径が大きくて横幅があります。それによってフレームが視界に入ってこないので視認性が確保されるのと、鼻幅が広くないので掛けやすさも生まれます。だからスポーティなんです。
ー機能美みたいなものなんですね。
今泉: 仰る通りです。スポーツサングラスとしてはめちゃくちゃ優秀ですよ。
ー先ほど、“例のモデル”は誰にでも似合うと金子さんが仰っていましたが、それはなぜなのでしょう?
今泉: 掛け幅が関係していると思いますね。オリジナルのモデルはそのバランスがいい。大きすぎるわけでもなく、小さすぎるわけでもない。その絶妙なサイズバランスが誰にでも似合う理由なんじゃないかと。あと、ブローラインが真っ直ぐに近いんですよ。眉のラインが直線的につながるので、ブレない。だからはっきりするんです。
それと、金子さんが持っていたアイテムは日本製ということもあり、アジアンフィットなんですよね。ノーズパッドが大きくつくられていて、日本人でもかけやすいつくりになっているのも大きいと思います。
金子: なるほど。今回つくったやつも大きさがちょうどいいなって思ってて。掛けたときに視界を遮るものもないから、掛けててストレスもないんですよ。あと、単純に美しいですね。芯が入ってないから。
今泉: テンプルのロゴも空打ちといってシンプルに打刻しただけなので、箔などを載せていないぶん本当に潔さしかないです。あとは芯がないから横から見たときの美しさも群を抜いています。なにも邪魔するものがないので、横顔がきれいに見えますよ。