90年代はリミックスの時代。
PROFILE
日本が世界に誇るKing Of Diggin’。DJはもちろんのこと、MC、プロデューサーとしてもワールドワイドに活躍中。音楽とファッションの繋がりを90年代から打ち出し「SAVAGE!」などのショップから発信を行い、現在は自身のブランド〈RECOGNIZE〉も手がけている。
ー今回の企画は90年代がテーマです。MUROさんは音楽の活動以外にも、渋谷でショップを運営されてらっしゃいましたよね。その時代の渋谷と原宿はどんなムードでしたか?
1996年11月から渋谷の宇田川町で「サヴェージ!(SAVAGE!)」(2008年閉店)というショップを運営していましたね。当時、原宿はスケーターの方が増え出していた頃で、新しいカルチャーをファッションに取り入れる習慣ができていた感じでした。対して、渋谷はヒップホップ一色だったので、とにかく迷彩モノなどのミリタリーウェアが流行っていましたね。そういったファッションアイテムを自分で買いつけしてきてお店に置いていました。
ー「サヴェージ!」をオープンした1996年はどんな年だったのでしょう。
自分にとってキーとなっている年ですね。初めて〈クラークス〉をセレクトしてお店に置いたのもそうですし、長年の夢だったNYのラジオステーションでDJすることが叶った年でもありました。同年、ゴーストフェイス・キラー(ウータン・クランのメンバー)というNYのラッパーが『アイアンマン』というアルバムをリリースしたんですが、ジャケットに映っているハンドメイドのカラフルな〈クラークス〉の「ワラビー」を見て衝撃を受けましたね。
昨年、〈クラークス オリジナルズ〉と〈レコグナイズ(RECOGNIZE)〉でコラボレーションさせていただいた際にも、それをイメージして一つひとつハンドメイドすることを考えながらデザインしました。いろんなシューズが存在するなかで、当時の〈クラークス〉はすごくラグジュアリー感のある存在。もちろん、いまも同様ですけれど。ゴーストフェイス・キラーは〈クラークス オリジナルズ〉のNY編のキャンペーンにも出演していましたね。
ー当時、いち早くヒップホップ・ファッションの一部として〈クラークス〉をセレクトし始めたのだと思いますが、お店で扱っていたアイテムはどのようなものだったんですか?
ヒップホップ・ファッションの代表的なものですね。アウトドア、スポーツ、ワーク、ミリタリー、この4つです。この頃から、これらの要素をミックスさせたデザインを自分でも意識して考えていたんですけど、その中に〈クラークス〉のシューズを取り入れると、パッとコーディネートに華が咲く感覚があるんですよ。それまでアメリカばかりを見てきたんですけど、初めてイギリスで〈クラークス〉などを買いつけてきたら、その反応が想像を大きく上回るものでした。それまではNYじゃなくちゃダメ、みたいな感覚もあったんですけど、それを機に買いつけだけではなく音楽の興味もヨーロッパまで広がっていきましたね。
ー1996年以前から、すでに〈クラークス〉はヒップホップ・ファッションの定番シューズ的な立ち位置にありましたか?
いえ、まったくなかったと思います。アルバム『アイアンマン』のジャケットが初で、何か一風変わった靴を履いている、つくっている、というところに大勢の人が衝撃を受けたんだと思います。ここからヒップホップシーンに火がついたと思いますね。そのジャケットの〈クラークス〉や、彼らが着ているカラフルな〈ポロ(ラルフローレン)〉は、すごく90年代を象徴していると思います。ちなみに、視線をレゲエ方面に向けると、昔から履かれていたのがレコードのジャケットからもわかります。映画『ロッカーズ』(1978年のジャマイカ映画)に見る、ルーディな合わせ方がすごく好きで憧れましたね。私はレゲエ方面から〈クラークス〉の存在を知りました。
ーMUROさんが愛用されている〈クラークス オリジナルズ〉のモデルを知りたいです。
どのモデルも履かせていただいたんですけど、最近は「ワラビー」が多いですね。最初に履いたのは「デザートトレック」でした。祖父が山登り好きで、ぼくも小さい頃から好きになり、ヒールについている山登りをしている姿に惹かれて、「デザートトレック」を履いていましたね。
ー本日は「ハラジュクパック」のカモ柄モデルを履いていただきましたが、セレクトされたのはミリタリーな要素があるからですか?
そうですね。あと、パッと見でタフな印象がありますよね。触った感じもたくましく感じます。90年代当時もいまと同様にオーバーサイズが流行っていましたね。あの頃であればM-65などに合わせたんだろうなと思います。今日はルーディな雰囲気もあるスエットのセットアップです。グリーン系のカモ柄なので、そこに合うようにブラウンを選んでみました。
ー改めて、MUROさんにとっての90年代はどんな時代でしたか?
ヒップホップにしても全ジャンル取り入れることができるというか。言ってしまえばそのサンプリングだったりっていうのがメインの時代でしたからね。 ファッションに関しても、「サヴェージ!」で扱っていたようにアウトドアやスポーツブランドのものを混ぜていってミックスさせる。DJももちろん同様ですけど、違うもの同士を掛け合わせて新しい表現にすることが流行った時代。つまりリミックスの時代だったと思います。本当に、90年代、00年代は面白いですね。何でも取り入れられる感覚は80年代後半にも似ている部分があって楽しかったです。
ーMUROさんが「リミックスの時代」だと仰ると、ものすごい説得力があると思います。
自分のアルバムの話になっちゃうんですけど、1枚だけラップアルバム(『PAN RHYTHM: Flight No.11154』 2000年発表)を出していて、それがリズムの旅をするようなコンセプトがあって、いろんな国の面白いとこを取り入れてリミックスしているんですよ。飛行機の前で撮影したジャケットなんですけど。今度は、この「ハラジュクパック」を履いて世界中を旅して回りたいですね。