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【FOCUS IT.】haru.が羊文学に感じる所感。神保町で開催中の「”ひみつの庭” inspired by羊文学- 12 hugs (like butterflies)」で得たアイデアとは?

東京・神保町にある「New Gallery」にて、羊文学の繊細で力強いサウンドをインスタレーション方式で空間に落とし込んだ企画展「”ひみつの庭” inspired by羊文学- 12 hugs (like butterflies)」が開催中です。

手掛けたのは、インディペンデントを貫く雑誌『HIGH(er) magazine』の編集長であり、ミレニアル世代を中心としたクリエイティブ集団「HUG」を率いるharu.さん。

彼女は『若者たちへ』や『our hope』など、羊文学作品のアートワークを担当し、今回の企画展では昨年発表された『12 hugs (like butterflies)』の楽曲を題材に、さまざまなアート作品が展示され、それらが有機的に結びつくことで、空間としての魅力を高めています。

そんな羊文学のメンバーとの対話を通して生まれたharu.さんのアイデアに触れるべく、彼女にインタビューを敢行。バンドに対する想い、それを具現化することへの難しさ、そして展示を通して発信したいことについて、彼女の頭の中にあることを話してもらいました。

Text_TSUJI
Edit_Yosuke Ishii


haru. / クリエイティブ・ディレクター
東京藝術大学在学中にインディペンデントマガジン『HIGH(er) magazine』を創刊し、編集長として辣腕を振るう。大学卒業後はクリエイティブカンパニー「HUG」を設立。「”ひみつの庭” inspired by羊文学- 12 hugs (like butterflies)」では展示ディレクションを務めた。

同じ時代を生きるひとっていう感覚がずっとある。

ーharu.さんと羊文学の接点は、雑誌で塩塚モエカさんと対談されたのがきっかけで生まれたそうですね。

haru.:そうですね。モエカさんが対談相手として私を指名してくれたんですが、そのときにどんな話をしたのか覚えていなくて。集合場所に私がすごく遅れて到着してしまったのは覚えてるんですけど…。

ーそのことについては展示会場で配られる“手紙”に書いてありますね。「彼女の憂いを帯びた大きな瞳は印象に残っている」という文章も添えられています。

haru.:おとなしそうなんだけど、言いたいことがあるんだろうなって、すごく感じたんです。

ーそれをきっかけに急接近したんですか?

haru.:小林真梨子っていう仲の良いフォトグラファーがいて、羊文学の写真を撮っていたんです。その後彼女を通してモエカさんと会う機会があり、『若者たちへ』のジャケ写を撮るときも現場に私はいたんです。

そのときの撮影はすごくDIYな感じで、バンドのヘアメイクを担当しているkikaさんがスタイリングをやったりとか、私もデザイナーという立ち位置を認識していたんですけど、アートディレクションまでやるとは思ってなくて、みんなの役割がいい意味で曖昧だったんですよ。肩書きにこだわるというよりは、みんなでなにがおもしろいか考えるような現場だったのが印象的でした。

ーなるほど。いきなり急接近というよりは、ゆっくりとお互いの共感を高めていったんですね。

haru.:そうだったと思います。仲間っていうよりは、同じ時代を生きるひとっていう感覚がずっとありますね。

ライブは完成されたものだけど、もっと輪郭をぼやかしたいと思った。

ーharu.さんは羊文学というバンドに対して、どんな印象を抱いていますか?

haru.:聴いていると、いろんな感情にさせられるんですよ。いまの時代を生きる中で、未来に対して明るい気持ちになれる瞬間があれば、そうじゃないときもある。そうゆう“波”を体現しているバンドだなって思います。そうした不安定さに共感するというか、心地よさを覚えてしまうんです。

アートワークを考えるときも、話すと通じ合えるんですよね。私はいろんなアーティストの方々とお仕事をする機会があるんですが、根本的に感覚が違うとやっぱり噛み合わないんです。それで対話の難しさを感じることも少なくないんですが、羊文学のメンバーにはそれを感じたことがない。

アルバム作品に関しても話を聞くと、自分が見てきた世界と、メンバーたちが見る景色がリンクする感覚があって。彼女たちと話していると、こういうジャケットがいいんじゃないかってアイデアがすっと湧いてくるんです。

ー今回の展示の題材となった『12 hugs (like butterflies)』を聴いたときは、どんな感情が浮かび上がりましたか?

haru.:前作の『our hope』を聴いたときは、すごく外を向いた作品だなと思いました。ジャケットも、クルマからこっちを見ているひとと一瞬目が合うような構図になっていて。その一瞬を逃さないようなイメージだったんですが、今回のアルバムは一瞬というよりも、自分の中で流れている時間を振り返るような感覚がありました。一回立ち止まって自分と向き合うことで、ようやく次へ進める、みたいな。そうゆう内省的な部分に惹かれたのを覚えています。

ーそれを空間で表現するにあたって、今回は「庭」という舞台装置を設けていますよね。

haru.:今回のお話を頂いて、私が『12 hugs (like butterflies)』を聴いて抱いた内省的なイメージを形にするために、最初は天井から幕が垂れてて、その中で自分をハグするような空間にしたいと思っていたんです。

ー心の中を空間化するようなイメージというか。

haru.:そうですね。それを考えていたのは去年の年末頃で、季節的にも心が内側に向く時間を大切にしたい時期だったんですよ。けれど、実際の会期は5月末から7月7日までで、その頃にはアルバムの捉え方も変わってくるんじゃないかと思ったんです。それでアルバムの中でも気持ちが前向きになれる楽曲を軸に展示をつくるのはどうか? というアイデアが生まれ、「GO!!!」という曲を軸に構成していこうとなりました。

「GO!!!」には扉というキーワードもある。そこから進んでいくイメージがあるとモエカさんも仰っていて、次の世界へ一歩踏み出すイメージが最初に湧きました。蝶番がキービジュアルになっているのも、そこから来ています。

そうゆうイメージをもとに「それを表現できる空間はなんだろう?」って考えた結果、“庭”にしたいと思いました。バンドがファンと交われるライブという空間は完成されたものだけど、もっと輪郭をぼやかしたいと思ったんです。

羊文学って私が出会った頃とは違うステージにいまは立っていて、自分たちの見て欲しい姿と実際の姿のあいだにギャップがあったりとか、若い女性の儚さに注目されることもあるけど、もっと自分たちの強い姿を見て欲しいとか、そうゆう希望もあることを私は感じていて。

ーこれまで作り上げてきたバンドのイメージと、メンバーたちの本来の姿。そのあいだにあるスペースを“庭”として表現しようと思ったということですか?

haru.:そうですね。庭って公共のスペースではないけれど、室内のようにプライベートな空間でもない。そうゆう曖昧さのあるとこにファンの方々を迷い込ませたらおもしろいんじゃないかって思ったんです。

ー実際に会場に足を運んだときに、来場されている方々を見ると、ゆっくりと思い思いの距離感で展示を見ている姿が印象的でした。たまたまなのかもしれないですが、お客さんの年齢層は塩塚さんやharu.さんと同年代くらいの方々がほとんどで、なにかしら想いを背負って生きているような印象がありました。

haru.:今回の庭をつくるにあたって、ジル・クレマンの『動いている庭』という本にものすごく影響を受けました。それを読んで、バンドも生き物だよなぁってすごく感じて。いま羊文学のいる場所って、必ずしも本人たちが望んだからいるわけではないような気がしていて。それは誰にもコントロールができない。バンドがあって、ファンがいて、その想いを受け取って、また新たに作品がつくられて。そしてバンドを支えるスタッフも増えて、それも含めてどんどん形を変えていっている。

今回の展示では作品をつくってもらったアーティストたちを“庭師”と称しているんですが、庭師は彼女たちが心地よく演奏できるように、ちょっとした手を加えることしかできない。良くも悪くも形は想像しないものへと変わっていくんだけど、私たちとしては、バンドがずっと音楽を続けてくれることを願うように手入れをしていて。そうゆう祈りみたいなものを根底にアーティストと話し合いながら、展示作品について一緒に考えていました。

コントロールできないものを手入れするひとたちという意味では、ファンの方々も庭師だなと思うんです。そんなファンの方々が会場へ来て、どんな想いを抱くのか不安な気持ちがあったんですが、「結構長居しちゃいました」とか、DMをいただいたりして、それがすごくうれしかったですね。

程よい適当さみたいなことを思い出して欲しい。

ー展示されている作品は『12 hugs (like butterflies)』に収録されている12曲をもとに制作されたんですよね。

haru.:そうですね。楽曲を1曲づつ、どんな形でアウトプットするかを先に考えて、それに合わせて最適なアーティストを庭師としてアサインしました。

ー“手紙”には作品のイラストが描かれていますよね。まず先にアイデアがあったということですか?

haru.:そうです。あのイラストは私が描いたものなんですが、そのラフをそれぞれの庭師に送って制作してもらいました。いままでご一緒したことのあるひとがいれば、そうじゃないひともいて、ごちゃまぜな空間になっています。

ー見たり、聴いたりして楽しむ作品があるのはもちろん、持ち帰ることのできる作品もあるのがいいなと思いました。

haru.:それは最初から考えていました。楽曲を聴いていると、「じゃあ、あんたはどうすんの?」ってずっと問われている感じがして。「ただ聴いて、気持ちよくなってんじゃねーぞ」ってモエカさんに言われているような気がするんですよ。そこからどうしようって思うことが大事というか。だから作品を持ち帰ったひとが、自分が主人公のその人生をどうするのか。受動的になるだけじゃなくて、しっかりと考えて欲しい。そういう想いを込めています。

ーメンバーの方々は展示に対して、どんなリアクションをされていましたか?

haru.:最初にアイデアを伝えたときに、「そうなるんだ!」ってワクワクしながら提案を聴いてくれました。会場に書かれた「GO!!!」の文字もメンバーが書いてくれたりとか、空間にちょっとでも携わりたいって、前向きに捉えてくれたのが私としてもすごくうれしかったですね。

ーまたやりたいと思いますか?

haru.:できるかな(笑)? まったく同じことをしようとは思わないけど、音楽の力ってマジですごいと思いましたね。空間ができる可能性を秘めているというか。私はスケッチを庭師の方々にお渡しして、お話をしただけなんですよ。それで出来上がったものを見て、庭師さんたちの解釈がそこには加わっていて、私自身も発見が大きかったんです。そうゆう庭師さんの解釈が細かなディテールに表現されていて、それが集合して見応えのあるものになっているんだと思います。でもまた同じことができるかといえば、それはわからないですね。

ー最後に来場者やこれから来場しようと思っている方々に向けて、メッセージをお願いします。

haru.:会場でメンバーと私の対話の録音が流れているんですけど、そこでもあるように、「こんなんでいいんだな」って思ってもらえたらうれしいですね。いまの世の中って「こうあるべき」っていうことが多すぎるじゃないですか。実際にそうしなくても大丈夫なことって多いと思うんです。

モエカさんとはじめて会ったときに私が遅刻をして、それでも全然気にしてない様子の私を見て、モエカさんが「これでもいいんだと思った」って話してくれたのが強く印象に残っているんです。

私はそんなつもりなかったんですけど、モエカさん的には私のそういうところや、周りのみんなが「まぁいっか」って思っているところに心地よさを感じてくれたのかなって思ってて。展示に来たら、そうゆう程よい適当さみたいなことを思い出して欲しいというか。

美しくない感情って、みんなあると思うんですよ。それをないものにしなくていいって、羊文学を聴いていると感じるんです。そうゆうことを感じられる展示にしたいとメンバーとも話していたんです。規格外の野菜が売られているのを見て、そんなにきれいじゃないし、泥がついちゃっているけど、まあ食べてみようじゃないかって思うおおらかさというか。そういうものを思い出せる場所になればいいなって思ってます。

INFORMATION

“ひみつの庭” inspired by 羊文学 – 12 hugs (like butterflies)

会期:2024年5月30日(木)‒ 7月7日(日)12:00-20:00 *最終入場は閉館の30分前まで
場所:New Gallery
住所:東京都千代田区神田神保町1-28-1 mirio神保町 1階
URL:https://newgallery-tokyo.com/secretgarden/
主催:New Gallery
協力:株式会社次世代 / F.C.L.S.
展示ディレクション:HUG inc.
企画サポート:CON_ デザイン:沖山哲弥
展示施工:DODI™ / アレキサンダー・ジュリアン

【チケット詳細】
入場券:1,000円 ※事前予約制
ご購入ページ:https://eplus.jp/himitsunoniwa/
※6歳未満未就学児入場無料
※本展示は入場日時指定制で、入場には電子チケットをスマートフォンで提示する必要があります。
※入場可能時間=記載入場時間から1時間以内。入場可能時間内(例:12:00~13:00)にお越しください。
※遅刻された場合、当日のみ入場可能ですが、混雑状況によりお待ちいただく可能性がございます。
※チケットの変更・払い戻し・再発行・転売不可

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